死体遺棄
死体遺棄の弁護士へのご相談・目次
1.死体遺棄罪とは 定義・法定刑・保護法益 「遺棄」とはどのような行為か |
2.逮捕・勾留の状況 |
3.弁護活動のポイント |
死体遺棄罪とは

定義・法定刑・保護法益
死体遺棄罪は、刑法190条に定められており、「死体」を「遺棄」した場合に成立します。
法定刑は、3年以下の懲役です。
死体遺棄罪は、刑法上「礼拝所及び墳墓に関する罪」の一つとして規定されており、死体遺棄罪の保護法益は、死者に対する一般的な宗教的感情や敬けん感情であると解されています(最判令和5年3月24日刑集77巻3号471頁)。
第190条(死体損壊等)
死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、3年以下の懲役に処する。
「遺棄」とはどのような行為か
「遺棄」とは、習俗上の埋葬等とは認められない態様で死体等を放棄し又は隠匿する行為をいいます(最判令和5年3月24日刑集77巻3号471頁)。
前述のとおり、死体遺棄罪の保護法益は「死者に対する一般的な宗教的感情や敬けん感情」ですので、習俗に従い社会通念上一般的と思われる方法で埋葬すれば、そのような法益を侵害することはなく、死体遺棄罪は成立しません。
しかし、習俗上の埋葬等と認められない方法で行った場合は法益侵害となり、死体遺棄罪が成立します。
従来、判例は、たとえば、殺人の罪跡を隠すために死体を土中や床下に隠す行為などに、死体遺棄罪の成立を認めてきました。
一方で、以下の最高裁判例は、「遺棄にあたらない」として、死体遺棄罪の成立を認めませんでした。
最判令和5年3月24日刑集77巻3号471頁
【事案の概要】
被告人(外国籍の女性)は、来日して技能実習生として働き、実習生を受け入れる会社が用意した寮で生活していたところ、妊娠した。被告人は、妊娠が発覚した場合技能実習を中止され帰国させられることを恐れて誰にも妊娠を打ち明けられず、寮で双子を出産したが双子は生後間もなく死亡した。遺体をタオルで包んだ上で段ボール箱に入れ、その上にタオルを被せ、さらに子どもの名前・生年月日と謝罪の言葉等を書いた手紙と一緒に段ボールに入れてテープで封をし、その箱をさらに別の段ボールに入れて封をして、自室の棚上に安置した。翌日、実習の管理等を行う団体の職員に連れられて病院にかかり、死産を告白し、嬰児は死亡2日後に発見された。このような被告人の行為が刑法190条の「遺棄」にあたるかが争点となった。
【最高裁判所の判断】
⑴ 刑法190条は、社会的な習俗に従って死体の埋葬等が行われることにより、死者に対する一般的な宗教的感情や敬けん感情が保護されるべきことを前提に処罰を定めたものと解される。したがって、習俗上の埋葬等とは認められない態様で死体等を遺棄し又は隠匿する行為が死体遺棄罪の「遺棄」に当たると解するのが相当である。そうすると、他者が死体を発見することが困難な状況を作出する隠匿行為が「遺棄」に当たるか否かを判断するに当たっては、それが葬祭の準備又はその一過程として行われたものか否かという観点から検討しただけでは足りず、その態様自体が習俗上の埋葬等と相いれない処置といえるものか否かという観点から検討する必要がある。
⑵ 被告人の行為は、死体を隠匿し、他者が発見することが困難な状況を作出したものであるが、それが行われた場所、死体のこん包及び設置の方法等に照らすと、その態様自体がいまだ習俗上の埋葬等と相いれない処置とは認められないから、刑法190条にいう「遺棄」に当たらない。
本件は、最高裁が刑法190条の「遺棄」の意義を初めて示したこと、遺棄に当たるか否かを検討する際の考慮要素を示したこと、遺棄に当たらない行為の一事例を示したことなどにおいて、重要な意義を有しています。
なお、本件に関して、日弁連は「元技能実習生の双子死産に関する最高裁無罪判決を受けての会長談話」を公表しています。
会長談話の中で、「そもそも妊娠した女性が孤立しないよう支援することが重要であるが、やむなく妊娠を誰にも明かすことなく自宅等で出産する孤立出産や流産・死産に陥ったケースが相次いでいる。このようなケースにおいて、背景・原因となる様々な事情を抱え本来は保護が必要な女性を、専ら死体遺棄罪等の被疑者・被告人であるとの視点で刑事手続に付してきたことの問題性が、本判決により浮き彫りとなった」と指摘されています。
虐待を受けたり、望まない妊娠を強いられた女性が、妊娠したことを誰にも相談できず、病院を受診することもできないまま、一人で出産し、直後に赤ちゃんを殺めてしまうというケース(いわゆる嬰児殺)が殺人罪、死体遺棄罪で起訴され、裁判員裁判になることがあります。父親が誰だかわからない、ということも少なくありません。
出産は、激しい痛みを伴うだけでなく、大量出血等によって母体が死亡するリスクもあります。子どもを望み、医療や周囲の支援がある方であっても、出産への不安は尽きないと思います。そのような出産をたった一人で迎えなければならない状況に追い込まれてしまった背景にどのような問題があったのか、今後二度とこのような悲しい出来事が起きないようにするために社会全体として何ができるのか、私たち一人ひとりが、しっかり考えていく必要があると思います。
死体を「放置」することが死体遺棄罪にあたる場合もある
法令・慣習上葬祭の義務がある人の場合、場所の移転を伴わない単なる放置(何もしないでそのままにしておく)にも、死体遺棄罪が成立する可能性があります。
たとえば、自宅で家族が死亡した場合に、死亡届を提出したり埋葬許可を得るなどの手続を行わなかった結果、亡くなった状態で遺体を自宅に置いたまま埋葬しなかったときには、不真正不作為犯として死体遺棄罪が成立し得ます。
大判大正6年11月24日刑録23巻1302頁によれば、死体遺棄罪は、死体を他に移して遺棄する場合のほか、葬祭をする責務のある者が、葬祭の意思なく死体を放置して立ち去る場合にも成立するとされています。
逮捕・勾留の状況
2023年検察統計年報によると、礼拝所・墳墓関係事件の逮捕・勾留の状況は、以下のとおりです。
- 礼拝所・墳墓関係事件には、死体遺棄罪のほか、礼拝所不敬罪、説教妨害罪、墳墓発掘罪、墳墓発掘死体遺棄罪、変死者密葬罪が含まれます。
逮捕の状況
検挙された件数 | 251件 |
---|---|
逮捕された件数 | 189件 |
逮捕されていない件数 | 62件 |
逮捕率(※1) | 約75% |
(※1)小数点第一位を四捨五入しています。
勾留の状況
逮捕された件数 | 189件 |
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検察官が勾留請求せず、釈放した件数 | 1件 |
裁判官が勾留した件数 | 1件 |
裁判官が勾留しないで、釈放した件数 | 184件 |
その他 | 3件 |
勾留率(※2・3) | 約97% |
(※2)裁判官が勾留した件数/逮捕された件数
(※3)小数点第一位を四捨五入しています。
弁護活動のポイント
死体が発見されて捜査機関が殺人事件の可能性を疑う場合、まず死体遺棄罪で逮捕・勾留して取調べを行い、死体遺棄罪の勾留延長満期日に、殺人罪で逮捕するということがよくあります。
死体遺棄罪や殺人罪で逮捕された場合、犯罪の成立を争う事件もあります。
また、死体遺棄罪等が成立する自体には争いはないけれど、先の嬰児殺のケースのように動機・経緯等に酌むべき事情があり不起訴処分を目指すケースもあります。
死体遺棄罪で逮捕されてしまったら、まずは早い段階で弁護士との接見を実現し、ご本人が法的なアドバイスを受けられるようにすることが大切です。
死体遺棄罪と殺人罪は、併合罪の関係にあります。
死体遺棄罪は裁判員裁判対象事件ではないので、死体遺棄罪のみで起訴された場合には、通常の刑事裁判が行われます。
他方、殺人罪は裁判員裁判対象事件ですので、死体遺棄罪+殺人罪で起訴された場合には、裁判員裁判が行われます。
このような刑事手続の流れを想定したうえで、逮捕後の取調べの中で、事実と異なる調書やご本人の真意と異なる調書等が作成されてしまうことがないように、逮捕直後の早期の段階で接見し、迅速に弁護活動を尽くすことが重要です。
そして、刑事裁判となった場合には、弁護人は、事件に至る経緯・背景を徹底的に調査し、そこにご本人の責任ではない事情がある場合には、その事実を主張・立証するとともに、二度と悲しい事件が起きないように、医療や福祉の専門家と連携しながらご本人の更生・支援環境の構築にも力を尽くします。
冤罪事件の場合には、無罪を争い、徹底的に冤罪弁護を尽くします。
弁護人は、被疑者・被告人の立場にある方の味方です。
お一人で悩まず、まずはご相談ください。