記事を執筆した弁護士

弁護士法人ルミナス法律事務所 東京事務所 所長
弁護士 神林 美樹

慶應義塾大学法科大学院卒業。最高裁判所司法研修所修了後、都内の法律事務所・東証一部上場企業での勤務を経て、現在、弁護士法人ルミナス法律事務所所長。日弁連刑事弁護センター幹事、第一東京弁護士会刑事弁護委員会・裁判員部会委員等を務めている。冤罪弁護に注力し、無罪判決4件獲得。また、障害を有する方の弁護活動に力を入れており、日弁連責任能力PT副座長、司法精神医学会委員等を務めている。

目次

1.はじめに
2.性犯罪再犯防止指導について
目標
対象者
プログラムのコースの決定
プログラムの実施頻度

 

 

はじめに

性犯罪は、再犯率が高い犯罪の一つです。その背景には、いわゆる性依存の問題が存在するケースも少なくありません。

 

性依存とは、性的問題行動に対するコントロールを喪失し、やめたいと思っていても衝動に抵抗できずに行為を繰り返した結果、重大な心理的・社会的問題を引き起こしている状態をいいます。性依存の問題を抱えている方が、このような状態から脱却し、二度と再犯しない状態へと回復するためには、単に刑事罰を科すだけでは不十分であり、専門的な治療が必要です。

 

民間の医療機関の中には、性依存症の治療を行っているクリニック、性依存症の治療モデルである認知行動療法を行っているクリニックがあります。性依存の問題を抱える当事者が集まって一緒に回復を目指す自助グループ(SA:Sexaholics Anonymous、SCA:Sexual Compulsives Anonymousなど)も存在します。

 

このように、社会の中には、性依存の問題の克服に向けた社会資源が存在します。

当事務所では、性犯罪を繰り返してしまったご本人や、ご家族の方から相談を受けて、上記のような医療機関等と連携した弁護活動を行っています。

 

では、刑事裁判で実刑判決を受けた場合、収容先の刑事施設では、このような性依存の問題に関して、どのような指導が行われているのでしょうか。

以下では、現在(令和2年7月13日時点)、刑事施設で行われている「性犯罪再犯防止指導」の概要について、ご説明します(※)。

 

 

性犯罪再犯防止指導について

目標

性犯罪につながる自己の問題性を認識させ、その改善を図るとともに、再犯をしないための具体的な方法を習得させること

 

 

対象者

性犯罪の要因となる認知の偏り、自己統制力の不足等がある者

 

性犯罪再犯防止指導は、性犯罪の受刑者全員に対して行われているわけではありません。

①受刑罪名・犯罪動機等の事件の内容、②常習性、③性犯罪につながる問題の大きさなどの観点から、受講の優先度が高いと判断された者に対してのみ行われています。

そのため受講を希望したとしてもプログラムを受けられないこともあります。

この点が、基本的には希望すれば治療を受けることができる民間の医療機関との違いです。

 

受講の優先度は、まず、各刑事施設が判断します。

そこで受講の優先度が高いと判断された受刑者は、詳細な検討を行うために、全国8刑事施設の調査センターに移送されます。

 

 

プログラムのコースの決定

調査センターでは、受刑者の再犯リスクや処遇ニーズを調査・判定し、プログラムのコースを決定します。コースは、高密度・中密度・低密度の3種類があります。

調査センターにおいてオリエンテーションを実施した後、指定された全国20の刑事施設に移送されて、そこでプログラムを受講します。

 

 

プログラムの実施頻度

プログラムは、1回100分のグループワークが中心です。

グループワークの実施頻度は、

高密度|標準週2回・9か月間

中密度|標準週2回・7か月間

低密度|標準週1回・4か月間

となっています。

 

グループワーク以外にも、個別の課題があり、必要に応じて、個別指導も並行して行われています。

 

これらのプログラムは、(性依存症の主要な治療モデルである)認知行動療法を基礎としており、高密度・中密度・低密度のすべてのコースで、「自己統制」についての科目が必修とされています。

「認知の歪みと変容方法」「対人関係と親密性」「感情統制」「共感と被害者理解」についての科目は、高密度では必修、中密度では本人の問題性に応じた選択的な受講となっています。

 

上記のように、プログラムの受講期間・実施頻度はかなり限定的です。 性依存のような、いわゆる依存症については、問題が根深く、回復には長い時間がかかるといわれています。そのような問題の特性から考えると、現状のプログラムの期間・頻度は、未だ十分ではないといえます。

プログラムを策定している法務省も、令和2年3月付けの「刑事施設における性犯罪者処遇プログラム受講者の再犯等に関する分析研究報告書」において、「高密度判定者は、そもそも再犯リスクが高く、問題性も深い複雑な一群であるところ、指導の効果が上がっているグループが存在する一方で、リスクや問題性が特に大きい者については、指導時間数という量的な面で不十分である可能性があり、プログラムの充実化に当たっては、その点も考慮する必要がある」と述べています(同報告書29頁)。

 

そして何よりも重要なことは、再犯は、社会の中で起きるということです。

性犯罪の再犯防止のためには、社会の中で適切な治療に繋がるための環境調整が重要です。

弁護人が治療を強制することはできません。

しかし、ご本人やご家族が治療を受けること、二度と再犯しないために性依存の問題を克服したいと希望されるのであれば、医療や福祉の専門家と連携しながら、弁護人として、なし得る限りのサポートをすることが大切だと考えています。

 

「性犯罪を繰り返してしまった。もう二度と、同じことをしたくない。」

「性犯罪で家族が逮捕されてしまい、どうしたらよいのかわからない。」

このようなご相談を多数お受けしてまいりました。

お一人で悩まずに、まずは、当事務所までご相談ください。

 

(※)参考資料

  • 法務省矯正局成人矯正課・法務省矯正研究所効果検証センター作成の令和2年3月付け「刑事施設における性犯罪者処遇プログラム受講者の再犯等に関する分析研究報告書」
    • 法務省のHPより「性犯罪再犯防止指導」 など

 

 

弁護士法人ルミナス法律事務所

弁護士 神林美樹

 

女性弁護士による性犯罪の法律相談

無料法律相談