記事を執筆した弁護士

弁護士法人ルミナス法律事務所 東京事務所
弁護士 大橋 いく乃

早稲田大学大学院法務研究科卒業。最高裁判所司法研修所修了後、弁護士法人ルミナス法律事務所に加入し、多数の刑事事件・少年事件を担当。第一東京弁護士会刑事弁護委員会・裁判員裁判部会委員、刑事弁護フォーラム事務局、治療的司法研究会事務局等を務める。無罪判決、再度の執行猶予判決等を獲得。精神障害を有する方の刑事弁護に注力しており、医療・福祉の専門家と連携した弁護活動に積極的に取り組んでいる。

目次

1.はじめに
2.誰が作成するもの?
3.更生支援計画の流れ
4.更生支援計画と刑事手続き
5.支援の必要性を感じている方は

 

 

はじめに

刑事手続きの中で、「更生支援計画」を策定することがあります。 「更生支援計画」とは、福祉的な支援が必要なご本人のため、その方の障害特性や病状を踏まえて、同じ行為を繰り返さないために必要な支援について記載された計画書です。 罪を犯した方の中には、障害を有する方が一定数いらっしゃいます。 平成30年版犯罪白書には、以下のような統計があります。

 

[4-9-1-1表] 精神障害者等による刑法犯 検挙人員(罪名別)

(平成29年)

区分 総数 殺人 強盗 放火 強制性交等・強制わいせつ 傷害・ 暴行 脅迫 窃盗 詐欺 その他
検挙人員総数(A) 215,003 874 1,704 579 3,747 46,675 2,808 109,238 9,928 39,450
精神障害者等(B) 3,260 117 64 108 41 807 87 1,152 148 736
精神障害者 2,002 68 42 57 33 492 47 707 92 464
精神障害の疑いのある者 1,258 49 22 51 8 315 40 445 56 272
B/A(%) 1.5 13.4 3.8 18.7 1.1 1.7 3.1 1.1 1.5 1.9

 

注1 警察庁の統計による。

注2 「精神障害者等」は、「精神障害者」(統合失調症,精神作用物質による急性中毒若しくはその依存症, 知的障害,精神病質又はその他の精神疾患を有する者をいい、精神保健指定医の診断により医療及び保護の対象となる者に限る。)及び「精神障害の疑いのある者」 (精神保健福祉法23条の規定による都道府県知事への通報の対象となる者のうち,精神障害者以外の者)をいう。

 

平成30年犯罪白書「4-9-1-1表」(http://hakusyo1.moj.go.jp/jp/65/nfm/n65_2_1_1_1_0.html)を加工して作成

 

検挙人員総数215,003名のうち、3260名とおよそ、1.5%が精神障害等にり患しているとされています。

また、診断等はなかったとしても、何らかの生きづらさを抱えている方は、この統計で明らかになっている以上にいらっしゃるように感じます。

 

周囲のサポートが必要な状態にも関わらず、十分な支援が得られていない方は多くいます。そして、その支援を受けることができれば、犯罪に至らなかったであろう方や、繰り返さずに済む方が多くいらっしゃいます。

そのような方の必要な支援を考え、同じ行為を繰り返さない環境を整えるために作成するのが更生支援計画です。

 

 

誰が作成するもの?

更生支援計画は、福祉専門職の先生に作成を依頼します。

福祉専門職とは、社会福祉士や精神保健福祉士など、福祉的支援の国家資格を有する専門家です。

更生支援計画の目的は、ご本人の今後の生活の精神的な基盤,生活の基盤を作ることで、再犯をせず、安心して生活できる環境を実現することにあります。そして、その目的を達成するためには、具体的にどのような福祉的サービスを利用できるか、どの機関と連携を取ることができるかといった福祉専門職の方の知見が必要となります。ご本人はもちろん、ご家族やこれまでの支援者のお話などを聞きながら、福祉的な専門家と一緒に支援を検討し、作成していきます。

 

 

更生支援計画の流れ

更生支援計画策定から実践の流れは以下の通りです。

 

①弁護士から福祉専門職へ相談依頼

②福祉専門職と弁護士とが打ち合わせ

③福祉専門職とご本人の面会・打ち合わせ

④ご家族を含む支援者、医師等からの情報収集

⑤アセスメント

  • アセスメントとは、ご本人の現状を理解し、将来の行動を予想したうえで、必要な支援を検討することをいいます。

⑥更生支援計画の検討・作成

⑦更生支援計画の立証(裁判(捜査機関)への提出+福祉専門職の先生の出廷等)

  • 最終的な処分を決定する裁判官や検察官に対し、更生支援計画を示し、内容を説明することで、支援の内容を十分に理解してもらい、それを踏まえた処分を検討してもらいます。

⑧更生支援計画の実践

 

ご本人と福祉専門職の先生、支援者、弁護士が意見交換をしながら、みんなでご本人のベストな環境を考え、形にしていくことが重要です。

これまで支援者には加わっていなかった機関と連携を取り、支援の輪に加わってもらうこともよくあります。

 

 

更生支援計画と刑事手続き

ご本人の生きづらさを解消し、安心して生活できる環境を整えることで、再犯リスクを低下させることが更生支援計画の目的です。

一方で、刑事手続きの中では、「再犯可能性」の有無・程度が、最終的な処分結果を左右する場合があります。

たとえば、執行猶予付きの判決が見込まれる事案であっても、裁判官は、同種の再犯リスクが高度にあると判断した場合には、執行猶予期間を長期間にしたり、保護観察付の執行猶予判決を選択するおそれもあります。そのような判断があり得るケースで、今回の事件を起こしてしまった原因を分析し、既にご依頼者には、再犯リスクが高まったときに、それを防ぐことのできる支援者がいることなど、再犯防止のための環境が整っている事実を、更生支援計画で立証することは有効です。

更生支援計画を通して、再犯リスクの低下を伝えることで、裁判官や検察官に、それを踏まえた最終的な判断をしてもらうことができます。

 

 

支援の必要性を感じている方は

刑事弁護活動の中では、様々な専門家と連携を取り合い、ご本人にとって最良の結果を求めます。

更生支援計画はそのような活動のひとつであり、ご本人の生きづらさを解消するための支援のひとつでもあります。

弊所では、更生支援計画を策定し、それに基づいて主張立証した結果、ご本人にとっての最良の結果を獲得した実績が多数あります。

刑事事件の背景に、ご本人の生きづらさがあるような場合には、更生支援計画の策定も視野に入れたご相談が可能です。

一度弁護士法人ルミナスにご相談ください。

 

 

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