執筆者

弁護士法人ルミナス 

弁護士 中原 潤一 が執筆しました。

最高裁が東京高等裁判所の決定を取り消し

2020年12月22日付で、最高裁判所第三小法廷が、平成30年6月11日に東京高等裁判所がした即時抗告の決定を取り消し、審理が不十分として東京高等裁判所に差し戻す決定をしました。

これは、平成26年3月27日に静岡地方裁判所が再審開始決定(裁判をやり直す旨の決定)をしたのを受け、静岡地方検察庁がそれを不服として即時抗告をして、東京高等裁判所がそれを認めて静岡地方裁判所の再審開始決定を取り消した東京高等裁判所の決定が対象になっています。

ですので、再審開始決定の取消しは、現段階で無かったことになっています。

今回の最高裁判所の決定は、再審開始決定を維持するかどうかを東京高等裁判所でもう一度審理しなさい、というものです。

 

 

何が問題になったのか

再審開始決定に必要な要件

再審を開始する要件を定めているのは、刑事訴訟法435条です。同条6号には、

「有罪の言渡を受けた者に対して無罪若しくは免訴を言い渡し、刑の言渡を受けた者に対して刑の免除を言い渡し、又は原判決において認めた罪より軽い罪を認めるべき明らかな証拠をあらたに発見したとき。」と規定されています。

弁護団が提出した証拠が、この「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」と言えるかが問題になっています。

静岡地方裁判所はこれに該当すると判断し、東京高等裁判所はこれに該当しないという判断になっています。

この点について、最高裁は今回の決定で、以下のとおり判断しています。

 

 

DNA鑑定

弁護団は、タンクの仕込み味噌の底部から発見された5点の衣類(白ステテコ、白半袖シャツ、ネズミ色スポーツシャツ、鉄紺色ズボン、緑色パンツ)についてのDNA鑑定を実施し、白半袖シャツの右肩部分に付着した血液のDNA型が袴田さんのDNA型と一致しないという鑑定を「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」として提出しています。

この点について、最高裁の多数意見は、東京高等裁判所の説示には不適切な点があるとしながらも、このDNA鑑定には、個人を識別するための証拠価値があるとは言えず、5点の衣類が犯行着衣であるとの確定判決の認定に合理的な疑いをさしはさむ証拠であるとは言えないとしました。

 

 

みそ漬け実験報告書

弁護団は、5点の衣類が1年以上にわたりタンクでみそ漬けされたものとして不自然な点があるか否かという点を検証し、報告書として提出しています。

これは、1年余りみそ漬けされた血痕に、5点の衣類が発見された当時のように赤みが残る可能性があるのかという点が問題になっています。

東京高等裁判所は、専門的知見に依らずに、発見された当時のように赤みが残る可能性があると結論付けましたが、最高裁は、この点についての専門的な知見があれば、その結論は変わった可能性があるとして、その審理をさせるために東京高等裁判所に本件を差し戻しました。

 

 

すべきであった最高裁判所の決定

本件の決定は、第三小法廷の裁判官5名の全員一致ではありません。

東京高等裁判所の決定を取り消すべきであったとするのは全員一致ですが、差し戻すべきと判断したのが3名、最高裁で取り消して再審開始決定をすべきと判断したのが2名です。

静岡地方裁判所で再審開始決定が出てからもう8年が経過しています。

東京高等裁判所でさらに審理となると、その結論が出るまでにまた年単位で時間がかかることが予想されます。

袴田さんは高齢です。これ以上の時間をかけることなく、直ちに再審を開始すべきです。

そうすると、最高裁で再審開始決定をすべきであったのではないでしょうか。

差し戻すべきと判断した3名の裁判官の中に、弁護士出身の裁判官が含まれていることが、非常に残念です。

 

 

なお、袴田事件の弁護団員ではありませんので、お問い合わせにお答えすることはできません。