記事を執筆した弁護士

弁護士法人ルミナス 代表
弁護士 中原 潤一

弁護士法人ルミナス代表弁護士。日弁連刑事弁護センター幹事、神奈川県弁護士会刑事弁護センター委員、刑事弁護実務専門誌編集委員等を務め、全国で弁護士向けの裁判員裁判研修の講師を多数務めている。冤罪弁護に精通し、5件の無罪判決を獲得。少年事件で非行事実なしの決定等の実績を有する。逮捕・勾留されているご依頼者を釈放する活動、冤罪事件の捜査弁護活動及び公判弁護活動、裁判員裁判等に注力している。

目次

1.はじめに
2.否認事件の場合
3.量刑事件の場合
4.さいごに

 

 

はじめに

先日、性犯罪の刑事裁判で「寛大な判決を求める」という内容の友人・知人の嘆願書を弁護側が提出したというニュースに触れました。

これを聞いて、「嘆願書を提出しても刑が下がることは無いのになぁ」と思いましたが、確かに昔からこういう風潮は存在していますし、ごく稀に、依頼者からこういう嘆願書を出したほうが良いかと聞かれます。その度に、私は、嘆願書には刑を下げる効果はないから嘆願書を用意してもらう必要はないとお伝えしています。ここでは刑事裁判で友人・知人の嘆願書を出しても意味がない理由についてご説明しようと思います。

 

 

否認事件の場合

まず、その刑事裁判が否認事件だった場合、つまり、例えば犯人ではないとか、その行為はしたけど同意があった等の主張の場合、友人・知人の嘆願書には意味がないことはわかりやすいかなと思います。もちろん、その場合の友人・知人の嘆願書の内容は、「そんなことをするような人ではありません」ということを前提にした寛大な判決を求めるものだと思います。しかし,その現場を見てもいない人達が言うその「人となり」を根拠として犯人か否かや同意があったか否かを考えるのは、事実認定のあるべき姿ではありません。また、どんな人でもいろんな側面がありますから、友人・知人の知らない顔を持っていることも十分あり得ます。ですので、犯人かどうか、同意があったかどうかということが争点になっている中で、寛大な判決を求めるという嘆願書は、その争点に対して必要最低限の証明力すら持っていないというべきでしょう。ですので、否認事件の場合、嘆願書の提出に意味はありません。

 

 

量刑事件の場合

では、犯罪行為をしたこと自体は認めた上で、どの程度の刑を課すかという量刑が争点となっている量刑事件の場合だったらどうでしょうか。この場合でも意味がないと考えられます。

量刑を決めるにあたっては、第一に、ご本人がしてしまった犯罪行為それ自体の悪質さを考え、それが当該犯罪の中で重い部類なのか、中程度なのか、軽い部類なのかということを考えます(これを「犯情」と言ったりします。)。例えば、性犯罪の中の強制性交等罪であれば、法定刑は5年以上ですから、10年以上の重い部類に入るのか、6〜8年程度の中程度の部類なのか、5年もしくはそれを下回るような軽い部類なのかということを犯罪行為それ自体で考えます。ここで考慮されるのは犯罪行為それ自体ですから、友人・知人の嘆願書は考慮されません。

どの部類に入るか決まったら、その中で、犯罪行為以外の事情を考慮します(これを「一般情状」と言ったりします。)。例えば、犯情で軽い部類に入ると考えられた場合、執行猶予付きの判決から懲役5年の実刑までの幅の中で、さまざまな要素を考えて最終的にどのような刑を課すかを考えることになります。ここでは、例えば被害弁償をして示談が成立していることや、被告人が反省の態度を示していること、更生の環境が整っていることなどが考慮されます。友人・知人の嘆願書が考慮されるとしたら、この一般情状として考慮されるということになります。

しかし、例えば強制性交等罪で、その友人・知人が「寛大な判決を求める」という嘆願書を作成しているとして、どうして刑を下げる事情になるのでしょうか。そのような嘆願書を作成していることが、なぜ被告人の刑を下げるのかという点についての理屈が必要になります。もっとも、これを理論的に説明することは困難に思われます。

そういう嘆願書を作成してくれる友人・知人がいることが、更生環境が整っていることを示すのだという主張はあり得るかもしれません。ただ、嘆願書を書いてくれた人達が全員被告人の更生を支えてくれるという保証はどこにもありません。ですので、ただ単に「寛大な判決を求める」という嘆願書を出したところで、裁判所が刑を下げる理由がないのです。

ですので、嘆願書を出すことに意味はなく、本当に被告人を支えてくれる友人や知人の方を一人でも裁判に呼んで、具体的に、今後どのように被告人に関わり、どのように支えていくのかということを証言してもらった方がよほど刑を下げる事情になるというべきでしょう。嘆願書を提出した場合、裁判所がリップサービスで判決において刑を軽くする理由に挙げる可能性はありますが、現実には量刑の判断には全く影響していないものと考えられます。

 

 

さいごに

以上のような思考から、冒頭の「嘆願書を提出しても刑が下がることは無いのになぁ」と思ったのでした。弁護士法人ルミナスでは、嘆願書の作成という方法ではなく、当該事案に応じてご依頼者の刑を下げる事情を丹念に考え、ご依頼者と一緒に主張立証しております。刑を軽くしてほしい、不当に重い刑になってしまったのではないか等のご相談は、弁護士法人ルミナス法律事務所までお寄せください。

 

 

弁護士法人ルミナス法律事務所横浜事務所

弁護士 中原潤一