記事を執筆した弁護士

弁護士法人ルミナス 代表
弁護士 中原 潤一

弁護士法人ルミナス代表弁護士。日弁連刑事弁護センター幹事、神奈川県弁護士会刑事弁護センター委員、刑事弁護実務専門誌編集委員等を務め、全国で弁護士向けの裁判員裁判研修の講師を多数務めている。冤罪弁護に精通し、5件の無罪判決を獲得。少年事件で非行事実なしの決定等の実績を有する。逮捕・勾留されているご依頼者を釈放する活動、冤罪事件の捜査弁護活動及び公判弁護活動、裁判員裁判等に注力している。

目次

1.はじめに
2.大麻施用罪とは
3.大麻施用罪の条文と刑罰
4.大麻由来製品と施用罪
5.大麻施用罪の弁護活動のポイント
6.おわりに

 

 

はじめに

令和6年12月12日に、「大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律」の一部が施行され、大麻等の不正使用(施用)に対して、大麻施用罪が適用されるようになりました(一般的に大麻「使用」罪と表記されることが多いですが、ここでは法律上の文言に従い、大麻施用罪と表記します)。

 

令和5年12月に大麻取締法・麻薬及び向精神薬取締法が改正され、今回その一部が施行されたことになります。

同改正により、これまで大麻取締法によって処罰されていた薬物「大麻」は、「麻薬及び向精神薬取締法」に規定する「麻薬等」の中に含まれることとなり、大麻施用罪は「麻薬及び向精神薬取締法」の中に置かれ、処罰されることになります。

また、大麻取締法は「大麻草の栽培の規制に関する法律」へと名称を変更し、大麻の栽培免許に関して規定するものとなりました。

 

令和5年改正の内容について、詳しくはこちら

 

本稿では、今回施行された内容のうち、特に新設された大麻施用罪に焦点を当て、弁護活動のポイントについても触れてまいります。

 

 

大麻施用罪とは

前述の令和5年改正において医療用大麻が解禁されると同時に新設されたのが「大麻施用罪」です。

従前、大麻取締法は、種々の理由から大麻の「使用」自体を処罰する規定は存在しませんでした。しかし、現行法上使用罪が無いことに対し確固とした根拠はないこと(※註1)、大麻がゲートウェイ・ドラッグとして乱用が広まっていることに対処する目的もあり(なお、大麻をゲートウェイ・ドラッグと位置付けるかについては争いがあります。)、大麻の使用それ自体に対しても、所持や譲渡と同様に処罰規定を設けるべきという認識が強く抱かれるようになりました。

※註1

大麻の使用に関して罰則が存在しなかった理由は、主に次のように説明されてきました。

  • 大麻草の栽培農家が、大麻草を刈る作業を行う際に大気中に大麻の成分が飛散し、それを吸引して「麻酔い」という症状を呈する場合を考慮したため。
  • 日本では古来より大麻草が衣服の繊維など生活に用いられてきた歴史があり、こうして衣服、食品から大麻成分が検出されたとしても処罰する必要のない人を処罰してしまう。

しかし、近似になって大麻栽培農家に尿検査を実施したところ、いわゆる「麻酔い」は確認されず、施用罪に罰則を設けない理由を説明することはできないと考えられるようになりました。

(出典:「大麻等の薬物対策のあり方検討会とりまとめ~今後の大麻等の薬物対策のあり方に関する基本的な方向について~」6頁,厚生労働省,https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001273713.pdf(参照日:2025年1月19日))

 

大麻施用罪は、麻薬及び向精神薬取締法が適用される薬物の中に「大麻」を含めることで、同法において既に規定されている施用罪を「大麻」にも及ぼし、処罰しようという考え方を取っています。

実際に、同法の規定を見てみましょう。

 

麻薬及び向精神薬取締法

第2条

第1項 この法律において次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

1 麻薬 別表第一に掲げる物及び大麻をいう。

1の2 大麻 大麻草の栽培の規制に関する法律(昭和23年法律第124号)第2条第2項に規定する大麻をいう。

 

1の2について、「大麻草の栽培の規制に関する法律(旧:大麻取締法)」第2条第2項では、大麻草(カンナビス・サティバ・リンネ)のうち種子・茎以外の部分とその製品のことを「大麻」と定義しています。

つまり、今後、いわゆる大麻は「麻薬」(※註2)にあたり、以下のような規定の適用を受け、原則として使用(※註3)が禁止され、違反した場合には「施用罪」として処罰されることになります。

 

第27条

第1項 麻薬施用者でなければ、麻薬を施用し、若しくは施用のため交付し、又は麻薬を記載した処方箋を交付してはならない。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。

一 麻薬研究者が、研究のため施用する場合

二 麻薬施用者から施用のため麻薬の交付を受けた者が、その麻薬を施用する場合

三 麻薬小売業者から麻薬処方箋により調剤された麻薬を譲り受けた者が、その麻薬を施用する場合

 

※註2

一般にイメージされるような粉末状の大麻だけではなく、一般市場に存在している大麻由来製品でも、場合によっては「麻薬」として検挙される可能性があります(詳しくは後述)。

※註3

自分で使用するだけではなく、偽って薬の投与を受けるなど他人に使用してもらうことも含んでいます。

 

 

大麻施用罪の条文と刑罰

前節でみたように、許可を受けた麻薬研究者が研究を目的としているのではない限り、原則として麻薬の使用は禁止されています。

すなわち、「大麻等を不正に施用する行為」に大麻施用罪が成立します。

 

第66条の2

第1項 第二十七条第一項又は第三項から第五項までの規定に違反した者は、七年以下の懲役に処する

第2項 営利の目的で前項の違反行為をしたときは、当該違反行為をした者は、一年以上十年以下の懲役に処し、又は情状により一年以上十年以下の懲役及び三百万円以下の罰金に処する。

3 前二項の未遂罪は、罰する。

 

前節で記載していない譲渡や所持といった他の形態とも併せて簡単に表にまとめると、以下のようになります。

 

施用 7年以下の懲役
営利目的施用 1年以上10年以下の有期懲役、情状により300万円以下の罰金併科
所持、譲受、譲渡 7年以下の懲役
輸出入、製造、栽培 1年以上10年以下の懲役

 

ここで挙げた行為は未遂でも処罰され、また、営利目的をもって施用した場合には、単純施用の場合よりも刑が重くなります。

いずれにしても法律上罰金刑のみ科する旨の規定が存在しないため、無罪若しくは全部執行猶予判決を得なければ実刑となってしまうことに注意が必要です。

 

 

大麻由来製品と施用罪

大麻施用罪は、一般的に違法薬物としてイメージされる粉末状の大麻を吸引したような事例だけではなく、「お土産で買ったお菓子に麻薬成分が含まれていたが食べてしまった」「ネット通販で購入した商品に麻薬成分が含まれていたが使用してしまった」といった何の気なしにとった行為にも、場合によっては罪が成立する可能性があることに注意が必要です。

 

旧・大麻取締法は大麻草の部位ごとに規制をしていましたが、大麻施用罪を規定する麻薬取締法では、成分ごとに規制をしています。

そして、ここで禁止されている成分がTHC(テトラヒドロカンナビノール)です。

大麻草にはカンナビノイドという独特な化合物群が含まれていますが、そのうち主なものがTHCCBD(カンナビジオール)という二つです。これらは化学構造が非常によく似ていますが、生体に及ぼす影響は異なり、有害影響として良く知られているものはTHCによるとされています。一方で、CBDは精神作用を示さないとされ、海外では医療用に用いられ、特に難治性てんかんの治療に利用されています。

 

大麻による有害影響の例(一部)

  • 時間感覚の歪み、短期記憶の障害、運動能力の失調障害(運転に支障をきたす等)
  • 不安、パニック、妄想、頻脈、粘膜充血
  • 統合失調症等の精神障害の悪化
  • 慢性使用により、悪心や嘔吐を特徴とするカンナビノイド悪阻症候群
  • 精神依存性があり、使用によって耐性を形成

 

※「令和2年度版犯罪白書」263頁,法務省(https://www.moj.go.jp/housouken/housouken03_00027.html)及び「大麻等の薬物対策のあり方検討会とりまとめ~今後の大麻等の薬物対策のあり方に関する基本的な方向について~」3~4頁,厚生労働省(https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001273713.pdf)をもとに弊所作成

 

麻薬取締法上THCは禁止される麻薬成分ですが、CBDそれ自体は禁止される麻薬成分にはあたりません。

そのため、大麻草由来製品(CBD製品)は、茎・成熟した種子(:麻薬取締法上「大麻」にあたらない部位)から抽出されたものはもちろんのこと、葉・花穂(:麻薬取締法上「大麻」にあたる部位)から抽出されたものでも、流通・使用が可能ということになってしまいます。

そこで、保健衛生上の危害を防止するために、大麻草由来製品等(CBD製品)について、政令でTHC残留限度値が設けられ、これを超える場合には麻薬取締法上の「麻薬」として、使用を禁止することとしました。

したがって、CBD製品であっても規定された残留限度値を超えてTHCが検出された製品を使用した場合、大麻施用罪にあたることになります。

CBD製品は、CBDオイル(化粧品)、CBDクッキーやチョコレート(チル成分をうたったもの)、大麻リキッド・大麻ワックス、電子タバコ等非常に多岐にわたって市場に存在しています。違法物品ではありませんが、THC残留値を確認するなど、当該製品が法律上の「大麻」にあたらないか、よく注意することが肝要です。

 

◇「知らないで購入してしまった!」「知らないで販売してしまった!」

CBD製品それ自体は違法なものではありませんが、残留限度値を超えたものであれば、「麻薬」にあたって、これらの製品に関するあらゆる行為(使用・所持・譲渡・譲受等)は麻薬取締法で禁止されることになります。

では、「基準値を超えたものと知らずに購入してしまった」「基準値を超えたものを知らずにネットで販売してしまった」「知らないで海外サイトから輸入してしまった」というとき、大麻に関連する犯罪は成立するのでしょうか。

結論から言うと、一般的には、残留限度値を超えていることに対して故意が認められなければ、犯罪は成立しないことになります。「基準値を超えているCBD製品を知らずに流通させてしまった」とき(※註4)は大麻譲渡罪、「知らずに購入してしまった」ときは大麻所持罪の成立が検討されることになりますが、どちらの罪も故意が必要ですから、故意がなければ犯罪は成立しないということになります。

※註4

CBD製品の販売については、事業者の責任において必要な検査を受けて、THCが残留限度値以下であることを確認・担保する旨が規定されています。

どのような検査機関に依頼するかは事業者次第ですが、検査によって同じ結果を得られるようにするため、統一的な検査方法を国が定め公表するとしています。検査機関の免許制や許可制といった制限は存在しませんが、「そもそも検査を受けてTHC残留値を確認しているか」「国の基準に従った検査方法を受けているか」が故意の認定に影響する可能性は存在します。

 

 

大麻施用罪の弁護活動のポイント

◇「知らないで使用してしまった!」というときでも…

前節の事例と同様に、大麻をそれと知らずに使用してしまった、THC残留値を超えていると知らずに当該製品を施用した場合であっても、一般的には、故意が認められなければ犯罪は成立しないと考えられます。

 

しかし、違法薬物を使用し違法行為を行った疑いが存在するため、捜査段階で身体拘束をされてしまう可能性はあります。実際のところ、大麻取締法違反の逮捕率は約54%、麻薬取締法違反の逮捕率は約60%(いずれも2023年度)であり、逮捕後の勾留率はいずれも9割以上と高い割合です。

 

◇早いうちに弁護士に相談することが必要

まず、捜査の早期の段階から、身体拘束からの解放に向けた弁護活動が重要です。

例えば、使用した大麻が、一般企業が販売したお菓子だったり、たばこの取扱店舗で購入した製品であった場合には、販売にあたって各種の法的規制や検査を受けていると考えられます。このときには、大麻使用にあたり故意がないという検察の判断を求めたり、身体拘束する理由がないとして早期の釈放を求めていくことが考えられます。

 

一方で、ネット通販で個人から購入・輸入した場合には、販売にあたって検査等の正規の方法をとっているかは不透明であり、正規の方法で購入したときよりも犯罪の嫌疑が高まると考えられます。

また、「CBD製品と書いているがTHCが含まれているかもしれない」と認識しつつ、それでもよいと思って購入し使用した場合には、未必の故意が存在すると受け取られ、大麻施用罪が成立する可能性があります。この場合、身体拘束からの解放に向けた活動とともに、公判において大麻施用罪の故意が争点になることを見据え、捜査機関による取調べの対処についても、弁護士から早いうちにアドバイスを受けることが肝心です。

 

◇薬物依存を抱えている方に向けて

令和5年版犯罪白書によれば、刑法犯について同一罪名で前科のある者の割合は、13.9%となっています。これに対し、大麻取締法違反についてみると、同一罪名の再犯者率は26.3%に上っています(令和4年度)。刑法犯全体と比較して、大麻取締法違反の再犯者の割合はかなり高い数値に上っており、再犯者が多い類型の犯罪であると言えます。

大麻に限ったことではありませんが、薬物依存症を抱えている場合、本人の独力だけでは薬物をやめて更生することが非常に困難です。本人が依存症治療を専門としている医療機関を受診したり、依存症患者や元・依存症患者らでつくる自助グループに参加して治療と向き合ったりするだけではなく、ご家族や福祉による支援も不可欠です。弊所では、ご家族に加え専門の医療機関や専門家の方々にも協力をお願いし、ご本人が二度と同じような犯罪を起こさないよう取り組むことにも努めております。

 

 

おわりに

大麻施用罪(大麻使用罪)は、刑法上の罪ではありませんが、新たな犯罪の創設という意味で、薬物規制の強化と重罰化を進めるものと考えられます。

そして、同罪で禁止される行為や対象は、この度の法改正の背景を踏まえれば、より理解を深めることができることでしょう。

弊所では、改正直後の現在だけではなく、今後の大麻施用罪の検挙・裁判の動向にも注視しながら、より適切な弁護活動ができるよう努めてまいります。

 

大麻施用罪をはじめとした大麻に関する罪でお困りの方、ご家族が逮捕されてしまったという方は、ぜひ弊所までご相談ください。

 

 

弁護士法人ルミナス法律事務所横浜事務所

弁護士 中原潤一