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弁護士法人ルミナス法律事務所 埼玉事務所 所長
弁護士 田中 翔
慶應義塾大学法科大学院卒業。最高裁判所司法研修所修了後、公設事務所での勤務を経て、現在、弁護士法人ルミナス法律事務所埼玉事務所所長。日弁連刑事弁護センター幹事、埼玉弁護士会裁判員制度委員会委員、慶應義塾大学助教等を務めるほか、全国で弁護士向けの裁判員裁判研修の講師も多数務めている。冤罪弁護に注力し、無罪判決2件獲得。もし世界中が敵になっても、被疑者・被告人とされてしまった依頼者の味方として最後まで全力を尽くします。
一審判決に納得できず控訴する場合、一審判決が実刑判決であるときは、控訴審で保釈を請求することが考えられます。
一審で保釈が許可されていても、判決の言渡しと同時に保釈の効力がなくなるため、実刑判決だった場合には、判決言渡し後にそのまま法廷で拘束されて拘置所等で勾留されます。
そのため、控訴審でも引き続き保釈を受けたい場合には、あらためて保釈の請求をする必要があります。
ただ、一般に、控訴審での保釈は、一審での保釈よりもハードルが上がります。
それは、控訴審では権利保釈の規定は適用されず(刑訴法344条)、裁量保釈(裁判官の裁量で保釈を許可するという保釈)のみとなり、裁量保釈の許可に当たっては、一審判決後の保釈については、拘束が継続することにより「不利益その他の不利益の程度が著しく高い場合でなければならない」とされているからです。
もっとも、一審判決後の保釈がほとんど認められないというわけではありません。
刑訴法344条2項但書では、「保釈された場合に被告人が逃亡するおそれの程度が高くないと認めるに足りる相当な理由があるときは、この限りでない」とされ、逃亡するおそれの程度が高くないと認めるに足りる相当な理由があるときは、保釈される必要性が高いことは求められていません。
実際にも、一審判決後の保釈が認められることは決して少なくありません。
一審判決での刑の長さ、事案の内容、一審での保釈中の生活状況、本人を監督する家族の存在などを考慮して、一審判決後の保釈が認められることは少なからずあります。
保釈されるかどうかというのはご本人にとっても重要なことですし、保釈されている場合には、弁護人との打合せもしやすい上、例えば働いて給料を得て新たに被害弁償を行うなど、控訴審で有利な証拠を作りやすくなるなど、保釈されるかどうかは防御活動そのものにも影響を及ぼすことがあります。
このように様々な点で、一審で実刑判決が出たからといって再保釈を諦めるのではなく、できる限り再保釈を目指していくべきです。
一審判決後の保釈(再保釈)については、逃亡や罪証隠滅の可能性がないこと、身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度など、刑事訴訟法で規定される保釈での判断要素について、適切に資料を集めて主張していく必要があります。
たんに保釈請求書を提出すれば許可されるというものではなく、なぜ再保釈が許可されるべきなのかについて裁判官を説得できるだけの十分かつ適切な資料を用意するべきです。
どのような再保釈請求をするかは、弁護人の技量によって変わるところです。
なお、犯罪事実を争わない場合に、事案によっては、反省を示すために保釈を請求せずに勾留されたままにしたほうがいいという考え方も一部にはあるようです。
しかし、一定期間勾留されること自体は直ちに被告人に有利な事情として考慮しない裁判官も少なくないと思われますし、有利に考慮される場合でも、勾留されていたことを被告人の有利に考えるには限度があるとされる可能性が高いといえます。
それよりも、保釈により釈放された上で、社会生活を歩み始め、働いてできる限りの被害弁償金を用意したり、事件の原因となった問題についてクリニックやカウンセリングに通うなど、釈放されなければできない再犯防止のための取り組みなどを行うほうがより良い量刑事情を作り出すことができます。
反省を示すために保釈を請求しないという考え方はやめるべきです。
また、一審での保釈期間中に問題なく生活できていたかも、再保釈での考慮要素になります。一般には、一審で保釈を受けていた方が、再保釈の請求でも有利に働くことが多いといえます。逆に、一審で保釈請求をしていなかったのに控訴審で保釈請求を行うことは、保釈へのハードルが上がります。
保釈保証金の用意などの様々な事情はあるにしても、一審でもできるだけ保釈請求を行っておくべきです。
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