記事を執筆した弁護士

弁護士法人ルミナス法律事務所 東京事務所 所長
弁護士 神林 美樹
慶應義塾大学法科大学院卒業。最高裁判所司法研修所修了後、都内の法律事務所・東証一部上場企業での勤務を経て、現在、弁護士法人ルミナス法律事務所所長。日弁連刑事弁護センター幹事、第一東京弁護士会刑事弁護委員会・裁判員部会委員等を務めている。冤罪弁護に注力し、無罪判決4件獲得。また、障害を有する方の弁護活動に力を入れており、日弁連責任能力PT副座長、司法精神医学会委員等を務めている。
令和4年6月17日に「刑法等の一部を改正する法律」(法律第67号)が成立し、同月17日に公布されました。
同法の改正点の一つとして、従来自由刑として定められていた「懲役・禁錮」が廃止され、新たな自由刑として「拘禁刑」が創設されています。
廃止される懲役・禁錮、創設された拘禁刑の概要は、以下のとおりです。
懲役:刑務所に収容した上で、刑務作業を行うことを義務付ける
≪問題点≫すべての受刑者に対して一定の刑務作業を行うことを義務付けており、個々の受刑者の特性(たとえば、障害を有する受刑者、高齢の受刑者、若年の受刑者、依存症の問題性を抱える受刑者など)に応じた作業・指導を実施する時間を確保することが困難であった
禁錮:刑務所に収容されるが、刑務作業は義務付けられない
↓
拘禁刑:刑務所に収容した上で、個々の受刑者の特性に応じて、改善更生を図るため必要な刑務作業を行うこと又は必要な指導を受けることを義務付ける
本改正によって、刑法の条文は、以下のように変更されました。
<改正前の刑法>
第9条(刑の種類)
死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留及び科料を主刑とし、没収を付加刑とする。
第12条(懲役)
1 懲役は、無期及び有期とし、有期懲役は、一月以上二十年以下とする。
2 懲役は、刑事施設に拘置して所定の作業を行わせる。
第13条(禁錮)
1 禁錮は、無期及び有期とし、有期禁錮は、一月以上二十年以下とする。
2 禁錮は、刑事施設に拘置する。
<改正後の刑法>
第9条(刑の種類)
死刑、拘禁刑、罰金、拘留及び科料を主刑とし、没収を付加刑とする。
第12条(拘禁刑)
1 拘禁刑は、無期及び有期とし、有期拘禁刑は、一月以上二十年以下とする。
2 拘禁刑は、刑事施設に拘置する。
3 拘禁刑に処せられた者には、改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができる。
第13条 削除
拘禁刑に関する規定は、令和7年6月1日から施行されます。
したがって、令和7年6月1日以降にした行為は、拘禁刑の適用対象となります。
法務省矯正局は、本改正に先立って行われた「矯正処遇等の在り方に関する検討会」(令和4年1月5日~同年3月10日)でなされた議論・検討の内容について取りまとめを行い、同年7月8日付け「矯正処遇等の在り方に関する検討会報告書」を作成、公表しています(法務省ウェブサイト:https://www.moj.go.jp/content/001376582.pdf)。
弁護人は、今後施行される、拘禁刑下での矯正処遇の実務運用に注目し、理解を深めながら、罪を犯してしまった障害を抱えている方、高齢の方、若年の方や、依存症の問題性を抱えている方等にとって、真の意味での改善更生・再犯防止に必要なことは何か、そのために必要な支援体制を社会の中でどのように構築していくのか、個別のケース毎に真摯に向き合い考えながら、日々の弁護活動に努めることが益々重要になると思います。
弁護士法人ルミナス法律事務所