記事を執筆した弁護士

弁護士法人ルミナス 代表
弁護士 中原 潤一
弁護士法人ルミナス代表弁護士。日弁連刑事弁護センター幹事、神奈川県弁護士会刑事弁護センター委員、刑事弁護実務専門誌編集委員等を務め、全国で弁護士向けの裁判員裁判研修の講師を多数務めている。冤罪弁護に精通し、5件の無罪判決を獲得。少年事件で非行事実なしの決定等の実績を有する。逮捕・勾留されているご依頼者を釈放する活動、冤罪事件の捜査弁護活動及び公判弁護活動、裁判員裁判等に注力している。
目次
1.触法少年に関する相談が増えています |
2.触法少年とは |
3.触法少年に関する手続 |
4.事件の発覚・触法少年の発見、児童相談所への通告 |
5.触法調査 |
6.児童相談所による調査・措置 |
7.家裁送致後 |
8.触法事件の付添人活動 |
9.触法少年の冤罪事件 |
触法少年に関する相談が増えています
・12歳の子どもが不同意わいせつをしたとして警察から呼び出しがあった。
・13歳の子どもが不同意性交をしたとして警察から呼び出しがあった。
性犯罪に関する刑法改正があった以降、14歳未満のいわゆる触法少年に関するご相談が増えています。これらのご相談の中には、本当にしてしまったお子さんについての相談から、ご本人が否認しているケースの相談もあります。そして、弁護士に相談するきっかけがなく、警察の調査を受けてから相談されるケースもあります。しかし、警察の調査の前にご相談していただく必要があります。このコラムでは、触法少年について解説をします。
触法少年とは
触法少年とは、14歳未満で刑罰法令に触れる行為をした少年を言います。(少年法3条1項2号)。刑罰法令に触れる行為をしたときの年齢が13歳や12歳の少年のことを言います。14歳未満の少年は、刑事未成年とされているため犯罪は成立しませんが(刑法41条)、少年法における審判・保護処分の対象とされています。
触法少年に関する手続
触法少年を発見した警察官は事件を児童相談所に送致することになりますが、送致の準備行為として、事件の調査(触法調査)を行うことができることとされています(少年法6条の2第1項)。
触法少年は、福祉的・教育的観点を持った専門の機関が非行に至った原因や背景を探ることで初めて少年にとって適切な処遇が実現できると考えられていることから、触法少年については第一次的に児童相談所による調査及び福祉的措置がなされ、家裁での審理が必要な事件については家裁に送致されることとなっています。
事件の発覚・触法少年の発見、児童相談所への通告
警察官が触法少年を発見した場合には、要保護児童として児童相談所へ通告する(児童福祉法25条)か、触法調査を経た上で触法事実が認められると思料するときには児童相談所長に送致する(少年法6条の6第1項)等の措置をとることになります。
触法調査
警察官は、客観的な事情から合理的に判断して、触法少年であると疑うに足りる相当の理由のある者を発見した場合において、必要があるときは、事件について調査をすることができるとされています(少年法6条の2第1項)。この調査を触法調査といいます。
なお、触法少年は低年齢であることから、「少年の情操の保護に配慮しつつ、事案の真相を明らかにし、もって少年の健全な育成のための措置に資すること」(少年法6条の2第2項)が要求されています。
調査の対象として、非行事実の存否及びその内容(原因及び動機を含む)が中心になりますが、要保護性に関する事項のほか、警察がとるべき措置(少年法6条の6等)の選択、処遇意見の決定(少年審判規則8条3項参照)等のため、非行事実以外の事情(少年の性格、経歴、教育程度、環境、家庭の状況、交友関係等)も調査の対象に含まれると解されています。
調査の方法として、少年、保護者又は参考人の呼出し及びそれらの者に対する質問(少年法6条の4第1項)、公務所又は公私の団体に対する報告の要求(同3項)、押収、捜索、検証及び鑑定嘱託などができるとされています。ただし、呼出し及び質問は任意のものであり、特に、質問を強制することはできないとされています(少年法6条の4第2項)。
児童相談所による調査・措置
児童相談所は、触法少年についての通告(児童福祉法25条)を受けた場合には、当該少年の状況の把握のために調査を行い(児童福祉法25条の6)、専門家の診断や児童福祉士らによる会議等を経て、当該少年に対する措置を決定することになります。
児童相談所による調査は、事件に関連する調査を行うこともあるが、あくまでも児童福祉の観点から少年本人の健全育成を目的として行われるものであり、必ずしも事件に焦点を当てた調査が行われるわけではないとされています。具体的には、当該少年の居住関係、学校の状況、家庭環境、生育歴、保護者の現状等についての調査が行われます。
児童相談所長は、児童福祉士等に児童又は保護者に対する指導の委託等の措置をとるか、知事に報告し、知事が児童又は保護者に対する訓戒、誓約書の提出、児童福祉施設への入所措置等の措置をとることができます(いずれも「福祉的措置」と呼ばれます)。
そして、触法少年のうち、家庭裁判所の審判に付することが適当であると認められる児童についてのみ、家裁送致することになります。
家裁送致後
児童相談所長から送致された後は、犯罪少年とほぼ同じ手続となります。
触法事件の付添人活動
少年及び保護者は、触法調査に関し、いつでも、弁護士を付添人として選任できます(少年法6条の3)。選任する際には、付添人選任届を警察署に対し提出しなければなりません。
触法少年の冤罪事件
触法少年にも、もちろん冤罪はあります。警察から連絡があったとしても、本人が犯罪に関与していないのであれば、それは闘わなければなりません。その場合には弁護人を選任して、適切に対処しなければなりません。
先日、朝日新聞で「12歳の自白」という記事が出されました(https://www.asahi.com/articles/AST3Y4JV3T3YUHBI019M.html?iref=pc_extlink)。
この事件は、触法少年とされる12歳の少女が冤罪であるにも関わらず、警察官から犯罪をしたかのような決めつけをされた取調べを受けたようです。そして、その結果、虚偽の自白をしてしまったようです。まだ12歳や13歳の少年少女にも、警察はそのような取調べを行うことが常態となっています。このような事件では、法律の専門家である弁護士と一緒に、お子さんを守らなければなりません。
弁護士法人ルミナス法律事務所横浜事務所