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弁護士法人ルミナス法律事務所 東京事務所
弁護士 大橋 いく乃

早稲田大学大学院法務研究科卒業。最高裁判所司法研修所修了後、弁護士法人ルミナス法律事務所に加入し、多数の刑事事件・少年事件を担当。第一東京弁護士会刑事弁護委員会・裁判員裁判部会委員、刑事弁護フォーラム事務局、治療的司法研究会事務局等を務める。無罪判決、再度の執行猶予判決等を獲得。精神障害を有する方の刑事弁護に注力しており、医療・福祉の専門家と連携した弁護活動に積極的に取り組んでいる。

目次

1. はじめに
2. 特別司法警察職員とは
①自衛隊警務官について
②麻薬取締官について
③海上保安官について
3.特別司法警察職員により捜査が行われた場合の流れ
4. おわりに

 

 

はじめに

刑事事件を捜査する機関というと、多くの人がまず警察官を思い浮かべると思います。

しかし、日本には、警察官以外にも一定の犯罪に限り警察官と同じように捜査権限を持つ特別司法警察職員という人たちが存在します。

 

 

特別司法警察職員とは

特別司法職員とは、特定の種類の犯罪について、刑事訴訟法上、司法警察職員としての役割を担う人たちのことを言います。刑事訴訟法第190条にその規定があります。

 

刑事訴訟法第190条

森林、鉄道その他の特別の事項について司法警察職員として職務を行うべき者及びその職務の範囲は、別に法律でこれを定める。

 

特別司法警察職員としては、様々な職業が存在しますが、例えば自衛隊警務官、麻薬取締官、海上保安官などが挙げられます。

これらの特別司法警察職員の捜査権限について、法律の条文に照らして確認していきます。

 

①自衛隊警務官について

まず、自衛隊警務官の捜査権限については、自衛隊法にその規定があります。

 

自衛隊法96条

① 自衛官のうち、部内の秩序維持の職務に専従する者は、政令で定められるところにより、次の各号に掲げる犯罪については、政令で定めるものを除き、刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)の規定による司法警察職員として職務を行う。

一 自衛官並びに統合幕僚監部、陸上幕僚監部、海上幕僚監部、航空幕僚監部及び部隊等に所属する自衛官以外の隊員並びに学生、訓練招集に応じている予備自衛官及び即応予備自衛官並びに教育訓練招集に応じている予備自衛官補(以下この号において「自衛官等」という。)の犯した犯罪又は職務に従事中の自衛官等に対する犯罪その他自衛官等の職務に関し自衛官等以外の者の犯した犯罪

二 自衛隊の使用する船舶、庁舎、営舎その他の施設内における犯罪

三 自衛隊の所有し、又は使用する施設又は物に対する犯罪

②、③省略

 

ここでいう「部内の秩序維持の職務に専従する者」が警務官に当たります。

警務官は自衛隊の中の警務隊に所属し、自衛官等が犯した犯罪、職務中の自衛官等に対して行われた犯罪、自衛隊の施設内等で行われた犯罪、自衛隊の施設や物に対して行われた犯罪等について司法警察職員としての権限を有します。

自衛隊内部での事件(性犯罪、窃盗、建造物侵入等)のニュースなどでも、警務官により逮捕されたと報じられることがしばしばあります。

一方で、自衛官等の起こした事件でも、通常通り、警察官が事件処理を取り扱うケースもあります。

 

②麻薬取締官について

次に、麻薬取締官の捜査権限については、麻薬及び向精神薬取締法にその規定があります。

 

麻薬及び向精神薬取締法第54条

①~④省略

⑤ 麻薬取締官は、厚生労働大臣の指揮監督を受け、麻薬取締員は、都道府県知事の指揮監督を受けて、この法律、大麻草の栽培の規制に関する法律、あへん法、覚醒剤取締法(昭和二十六年法律第二百五十二号)若しくは国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律(平成三年法律第九十四号)に違反する罪若しくは医薬品医療機器等に違反する罪(医薬品医療機器等法第八十三条の九、第八十四条第九号(名称、形状、包装その他の厚生労働省令で定める事項からみて医薬品医療機器等法第十四条、第十九条の二、第二十三条の二の五若しくは第二十三条の二の十七の承認若しくは医薬品医療機器等法第二十三条の二の二十三の認証を受けた医薬品又は外国において、販売し、授与し、若しくは販売若しくは授与の目的で貯蔵し、若しくは陳列(配置を含む。以下この項において同じ。)をすることが認められている医薬品と誤認させる物品を販売し、授与し、又は販売若しくは授与の目的で貯蔵し、若しくは陳列をする行為に係るものに限る。)、第十九号(医薬品医療機器等法第五十五条の二の規定に係る部分に限る。)、第二十一号、第二十七号(医薬品医療機器等法第七十条第一項に係る部分については、医薬品医療機器等法第五十五条の二に規定する模造に係る医薬品に係る部分に限る。)及び第二十八号、第八十五条第六号、第九号及び第十号、第八十六条第一項第二十五号及び第二十六号並びに第八十七条第十三号(医薬品医療機器等法第六十九条第四項及び第六項(医薬品医療機器等法第五十五条の二に規定する模造に係る医薬品に該当する疑いのある物に係る部分に限る。)並びに第七十六条の八第一項の規定に係る部分に限る。)及び第十五号(以下この項において「第八十三条の九等の規定」という。)並びに第九十条(第八十三条の九等の規定に係る部分に限る。)の罪に限る。)、刑法(明治四十年法律第四十五号)第二編第十四章に定める罪又は麻薬、あへん若しくは覚醒剤の中毒により犯された罪について、刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)の規定による司法警察員として職務を行う。

⑥~⑧省略

 

麻薬取締官は、麻薬や大麻、覚せい剤、あへん等に係る犯罪について、捜査権限を有します。こちらは通称「マトリ」としてテレビなどでも取り上げられることが多いので、ご存じの方も多いかもしれません。

 

②海上保安官について

最後に、海上保安官の捜査権限については、海上保安庁法にその規定があります。

 

海上保安庁法第31条

① 海上保安官及び海上保安官補は、海上における犯罪について、海上保安庁長官の定めるところにより、刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)の規定による司法警察員として職務を行う。

② 海上保安官及び海上保安官補は、第二十八条の二第一項に規定する場合において、同項の離島における犯罪について、海上保安庁長官が警察庁長官に協議して定めるところにより、刑事訴訟法の規定による司法警察員として職務を行う。

 

海上保安官は、基本的に海上における犯罪について司法警察職員としての権限を有します。また、警察官が迅速に赴くことが困難であると認められる離島においても捜査権限を有する場合があります。

具体的には、密漁や、船舶の事故による業務上過失致死傷事件などで、海上保安官が捜査を行うことがあります。

 

特別司法警察職員により捜査が行われた場合の流れ

特別司法警察職員によって捜査が行われた事件の手続は、その後、基本的には通常の刑事事件と同じように進みます。

特別司法警察職員は、刑事訴訟法上の司法警察職員として活動するため、逮捕権も持ち合わせています。もし、特別司法警察職員に逮捕されてしまった場合にも、通常の事件と同様、48時間以内に検察官に事件が送致され、検察官により必要があると判断された場合には、事件の送致を受けてから24時間以内に裁判官に対して勾留請求を行います。このような手続に対し、行うべき弁護活動は通常と同様です。詳しくは、こちら(https://luminous-law.com/interview/)。

をご覧ください。

逮捕がされない在宅事件の場合にも、特別司法警察職員による取調べ等があったうえで、事件が検察官に送致され、起訴・不起訴の判断がなされます。不起訴処分を目指して、被害者の方がいる事件の場合に早期に示談交渉に着手したり、事実関係を争う事件の場合に嫌疑を争うべく証拠収集をしたりといった弁護活動が必要となることも通常の事案と同様です。

 

おわりに

特別司法警察職員が捜査する事件であっても、刑事事件であることに変わりはありません。万が一逮捕されてしまったり、捜査の対象となってしまったりした場合には、刑事手続を熟知した弁護士を選任することで適切な防御活動をすることが可能となります。

弊所では、本改正施行後、適切なケースにおいて適切な形で制度が利用されるよう、尽力してまいります。

弊所では、自衛隊警務官など、特別司法警察職員が扱った事件についてご相談を受けた経験があります。

もし、ご自身やご家族が上記のような特別司法警察職員によって捜査を受けているといったような場合には、弊所までご相談ください。

 

 

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