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弁護士法人ルミナス 代表
弁護士 中原 潤一
弁護士法人ルミナス代表弁護士。日弁連刑事弁護センター幹事、神奈川県弁護士会刑事弁護センター委員、刑事弁護実務専門誌編集委員等を務め、全国で弁護士向けの裁判員裁判研修の講師を多数務めている。冤罪弁護に精通し、5件の無罪判決を獲得。少年事件で非行事実なしの決定等の実績を有する。逮捕・勾留されているご依頼者を釈放する活動、冤罪事件の捜査弁護活動及び公判弁護活動、裁判員裁判等に注力している。
目次
1.保釈とは |
2.保釈の種類 権利保釈 裁量保釈 義務的保釈 |
3.保釈の手続 保釈の手続きの流れ 第一審における保釈 控訴審における保釈 |
4.保釈の取消など |
5.保釈の効力 |
保釈とは
保釈とは、保証金の納付を条件として、勾留の執行を停止し、拘禁状態を解く制度のことをいいます。
もともと勾留というのは、対象者の逃亡や罪証隠滅を防ぐための処分であり、被告人の身体を拘束しなくてもこの目的を達成することができるのであれば、その手段を選択することが要請されています。保釈というのは、勾留しない代わりに、万が一逃げたり、証拠を隠滅するようなことがあれば保釈保証金を没収するという心理的強制を加えることによって、被告人が逃亡したり証拠隠滅を図ることを防ぐことができる制度です。
保釈の種類
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権利保釈(刑事訴訟法89条)
保釈は、勾留されている被告人、弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族もしくは兄弟姉妹の請求(刑事訴訟法88条)があるときは、刑事訴訟法89条に列挙されている事由に当たる場合を除き、原則としてこれを許さなければならないとされています(刑事訴訟法89条)。これを権利保釈(必要的保釈)といいます。
ただし、かなり広い範囲で例外が認められていて、
被告人が、
①死刑、無期または短期1年以上の懲役・禁錮に当たる罪を犯したものであるとき(刑事訴訟法89条1号)
②前に死刑、無期又は長期10年を超える懲役・禁錮に当たる罪について有罪の宣告を受けたことがあるとき(同条2号)
③常習として長期3年以上の懲役・禁錮に当たる罪を犯したものであるとき(同条3号)
④罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき(同条4号)
⑤被害者その他事件の審判に必要な知識を有する者またはその親族の身体・財産に害を加え、またはこれらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき(同条5号)
⑥被告人の氏名又は住所がわからないとき(同条6号)がこれに当たります。
③の「常習として」というのは、起訴された犯罪と同じ性質の行為が繰り返し行われている場合をいい、同種の前科があることまでは必要とされていません。
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裁量保釈(刑事訴訟法90条)
権利保釈の例外事由である①~⑥に当たった場合であっても、また、保釈の請求がなかったとしても、裁判所は適当と認める場合に被告人を保釈することができます(刑事訴訟法90条)。これを裁量保釈といいます。裁量保釈は、保釈された場合に被告人が逃亡したり罪証を隠滅するおそれの程度や、身体拘束を続けることにより被告人が受ける健康上(通院ができない等)、経済上(家賃を支払えず、家を追い出されてしまう等)、社会生活上(欠席や欠勤が続き、退学や退職になるおそれがある等)、または防御の準備上(弁護士と裁判に向けた打ち合わせがしづらい等)の不利益の程度その他の事情を考慮して判断されるので、弁護人は裁判所にこれらの事情について説明する書面を提出し、裁判所に保釈を求めることになります。
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義務的保釈(刑事訴訟法91条)
また、これらの保釈に加えて、勾留による拘禁が不当に長くなったときには、裁判所は請求又は職権で勾留を取り消すか、保釈を許さなければならないことがあり(刑事訴訟法91条)、この場合の保釈は義務的保釈と呼ばれています。
保釈の手続
保釈の手続きの流れ
裁判所・裁判官が保釈に関する決定を行うときには、検察官の意見を聴かなければなりません(刑事訴訟法92条1項)。弁護人から提出された書面や面談の結果、そして検察官の意見を踏まえて保釈を許すかどうかを決定します。
保釈を許す場合には、犯罪の性質や被告人の性格、資産などの様々な事情を考慮して保証金の金額を決めます。他にも、被告人が住む場所を定めたり(制限住居といいます)、その他旅行や関係者との接触を禁止するなどの条件が付けられることもあります(刑事訴訟法93条)。
保釈が認められなかった場合、弁護人は、第一回公判前の決定に対しては準抗告(刑訴429条1項2号)を、第一回公判後の決定に対しては抗告(刑事訴訟法420条2項)をするなどして、保釈を認めてもらえるよう働きかけます。
条件に違反することなく裁判手続を終えれば、納付した保証金はそのまま返還されます。保証金の立替をしてくれる日本保釈支援協会という機関もあり、金銭的な余裕がない方でも、保釈制度を利用することができるようになっています。
第一審における保釈
保釈は、裁判所に公判請求(起訴)をされた瞬間から行うことができます。
ですので、公判請求(起訴)されそうな事件では、あらかじめ保釈の準備をしておく必要があります。
上記のように、権利保釈除外事由が無ければ保釈は許されなければなりませんし、権利保釈除外事由に該当しているとしても、裁判所・裁判官が裁量保釈を許せば保釈されることになります。実務上は、保釈許可決定書にどういう理由で許可しているのかは記載されませんので、権利保釈で保釈されたのか、裁量保釈で保釈されたのかはわかりません。
控訴審における保釈
第一審判決が実刑判決だった場合、再び保釈請求をすることができます。
これを再保釈請求と言います。
ただし、第一審と異なり、禁錮以上の刑に処する判決の宣告があった後は、権利保釈の規定は適用されません(刑事訴訟法344条)。ですので、第一審判決後は、裁量保釈を求めることしかできないという事になります。
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保釈の取消など
裁判所・裁判官は、被告人が
①召喚を受け正当な理由なく出頭しないとき、
②逃亡し、または逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき、
③罪証を隠滅し、または隠滅すると疑うに相当な理由があるとき、
④被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え若しくは加えようとし、またはこれらの者を畏怖させる行為をしたとき、
⑤被告人が住居の制限その他裁判所の定めた条件に違反したときには、検察官の請求によりまたは職権で、保釈を取り消すことができます(刑事訴訟法96条1項)。
この場合、保証金の一部または全部が没収されることがあり(同条2項)、保釈が取り消された場合、被告人は刑事施設に収容されます(刑事訴訟法98条)。
ですので、保釈の条件は守らなければなりません。
保釈の効力
禁錮以上の刑に処する判決の宣告があったときは、保釈の効力は失われます(刑事訴訟法343条)。
ですので、第一審判決で禁錮以上の刑に処する判決の宣告があった場合には、その場で保釈の効力が失われ、そのまま収監されることになります。
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