万引き・クレプトマニアの弁護活動
万引きが止められない方、そのご家族の方へ
「もう二度と万引きをしたくない。絶対にやめたいと思っているのに、また万引きをしてしまった」
「万引きした後は、罪悪感でいっぱいになる。やめたいと思っているのに、やめられない。どうして万引きを繰り返してしまうのか、自分でもわからない。」
万引きを繰り返してしまった方から、これまで何度も、同様のお話をお伺いしました。
万引きを繰り返してしまうことを病気だと思わず、または、病気のせいにしてはいけないと思い、治療につながることができないまま悩み、苦しんでいる方が、多くいらっしゃいます。
万引きをやめられない原因は、あなたの意思の弱さではないかもしれません。
「クレプトマニア(窃盗症)」という、万引きを繰り返してしまう病気があります。
もし、万引きを繰り返してしまう背景にクレプトマニアという病気の影響があるのであれば、専門家に相談し、適切な治療を受けて、回復に努めることが大切です。
そして、検察官や裁判官に対し、万引きをしてしまった背景にはクレプトマニアという病気の影響があったこと、今後二度と万引きを繰り返さないためにいま治療を受けていること、今後二度と万引きをしないための支援体制が整備されていることなどを伝えることが重要です。
万引きは、初回は、微罪処分として検察庁に送致されずに終結するケースもあります。
しかし、繰り返すと、検察庁に送致され、検察官による処分を受けることになります。
検察官の処分は 不起訴処分 ⇒ 略式命令請求(正式裁判を経ず罰金) ⇒ 公判請求(正式裁判) と、どんどん重くなります。
裁判になった場合、初めての裁判では執行猶予判決となることが多いですが、2回目以降は、実刑判決となる可能性が高くなります。
何もしなければ、ただ科される刑事罰が重くなっていってしまうのです。
しかし、クレプトマニアにり患し、ご本人の意思だけでは抑制困難な窃盗衝動が生じて万引きに至っている場合には、単に刑事罰を科すだけでは、問題の根本が解決しません。
二度と万引きを繰り返さないためには、クレプトマニアという病気に対する治療や支援が必要不可欠です。
そして、治療環境及び支援体制が整い、ご本人が治療と再犯防止に向けて真摯に取り組んでいる場合には、再犯可能性が低減している事情として、ご本人に有利に考慮される可能性があります。
当事務所では、クレプトマニアの治療に関する専門家や、社会福祉士等の福祉の専門家とも連携しながら、ご本人の生活環境調整からサポートをさせていただいております。
クレプトマニアのような依存症の場合、ご本人だけでなく、支えているご家族も、ご本人が繰り返してしまうことに戸惑い、悩んでいることが多いと思います。
万引き以外の犯罪行為とは一切無縁な方が、万引きだけを繰り返してしまうことについて、何かおかしいと気づいたご家族からのご相談で、弁護依頼を受けるケースも多くあります。
家族間でなんとかご本人の万引きを防ごうと手を尽くしているけれども、それでも繰り返してしまい、どうすればよいのかわからないと仰るご家族もいらっしゃいます。
当事務所では、そのようなご家族のお気持ちにも寄り添い、ご家族だけで悩みを抱え込んでしまうことがないように、医療や福祉の専門家と連携しながら、ご家族が助言や支援を受けることができる環境作りのサポートにも注力しています。
これまで、多くのクレプトマニアの方による万引き事件に携わってきました。
クレプトマニアの問題に関する司法の理解が未だ不十分であることは否めませんが、近年、重要な裁判例(東京高判令和4年12月13日等)も出ており、少しずつ進化しています。
一人ひとりの依頼者を護るためには、なにより、弁護人が、日々の弁護活動や、精神科医、社会福祉士等の専門家との研究会などを通じて、クレプトマニアという病気に関する理解を深め、弁護活動を尽くすことが重要です。
当事務所では、これからもクレプトマニアに関する研究会等に積極的に参加し、常に最先端の知識の習得に努めながら、弁護活動を尽くしてまいります。
どうか一人で抱え込まないでください。
ご本人も、ご家族も、決して一人ではありません。
お一人で悩まず、ぜひ、お気軽にご相談ください。
クレプトマニアとは?
クレプトマニアとは、窃盗症、病的窃盗(窃盗癖)などとも呼ばれていますが、個人的に用いるものでも、または金銭的価値のあるものでもないのに、物を盗もうとする衝動に抵抗できなくなることが繰り返されてしまうという精神障害です。
何度逮捕されても、社会的地位があっても、十分なお金があっても、捨ててしまうものであっても、万引きをするのが止められない。
そのような症状がある場合、万引きが止められない原因は、ご本人の意思の問題(意思の弱さ)ではなく、クレプトマニアという病気の影響かもしれません。
クレプトマニアの特徴
クレプトマニアの方も、盗みたいという衝動がおかしいものであることに気づいていますし、盗む行為が悪いことだということも十分認識しています。逮捕されることを恐れ、盗んだことで罪悪感を抱くこともよくあります。
過食症や拒食症といった「摂食障害」をはじめとして、「気分障害」「不安障害」「人格障害」などがクレプトマニアに伴っていることもよくあります。
傾向として、女性に多い傾向があると言われています。
有病率
米国精神医学会が作成する精神疾患に関する国際的な診断基準であり、刑事事件における精神鑑定においても広く用いられているDSM-5-TR「精神疾患の診断・統計マニュアル」(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)によると、窃盗症の有病率については、「米国とカナダでは、窃盗症は万引きで逮捕された人のおよそ4~24%にみられる。米国一般人口における有病率は非常にまれであり、約0.3~0.6%である。女性は男性より多く、3:1の比率である」とされています。
クレプトマニアの診断基準
クレプトマニアの診断基準として、以下のものが用いられています。
「診断基準:DSM-5-TR」~窃盗症
DSM-5-TRとは、「精神疾患の診断・統計マニュアル」(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)の最新版のことです。
DSM-5-TRにおける、窃盗症の診断基準は以下のとおりです。
基準 | 内容 |
---|---|
A | 個人的に用いるものでもなく、またはその金銭的価値のためでもなく、物を盗もうとする衝動に抵抗できなくなることが繰り返される。 |
B | 窃盗におよぶ直前の緊張の高まり。 |
C | 窃盗を犯すときの快感、満足、または解放感。 |
D | その盗みは、怒りまたは報復を表現するものではなく、妄想または幻覚への反応でもない。 |
E | その盗みは、素行症、躁エピソード、または反社会性パーソナリティ症ではうまく説明されない。 |
DSM-5-TRは、窃盗症の併存症として、以下を挙げています。
実際の刑事事件でも、特に女性の方では、窃盗症と接触症群が併存しているケースが多くみられます。
- 強迫的な買い物
- 抑うつ症と双極症(特にうつ病)
- 不安症群
- 摂食症群(特に神経性過食症)
- パーソナリティ症群
- 物質使用症群(特にアルコール使用症)
- 他の秩序破壊的・衝動制御・素行症群
「診断基準:ICD-10」~病的窃盗(窃盗癖)
ICD-10とは、「国際疾病分類」(International Classification of Diseases)のことです。
診断ガイドライン
患者は通常、行為の前には緊張感が高まり、その前や直後には満足感が得られると述べる。
通常、何らかの身を隠す試みがなされるが、そのためにあらゆる機会をとらえようとするわけではない。
窃盗はただ1人でなされ、共犯者と一緒に実行されることはない。
患者は店(あるいは他の建物)から窃盗を働くというエピソードの間に不安、落胆、そして罪悪感を覚えるが、それでも繰り返される。
この記述のみを満たし、しかも以下にあげるいずれかの障害から続発しない例はまれである。
鑑別診断
病的窃盗は以下のものから区別されなければならない。
明白な精神科的障害なしに繰り返される万引き(窃盗行為はより注意深く計画され、個人的な利得という明らかな動機がある場合)
器質的精神障害、記憶の減弱および他の知的能力の低下の結果として、商品の支払いを繰り返して怠ること
窃盗を伴ううつ病性障害、うつ病患者のあるものは窃盗を行い、うつ病性障害が続く限りそれを反復することがある
このように、クレプトマニア以外の精神障害の影響により、万引きを繰り返してしまうケースもあります。認知症やうつ病などが、その一例です。
医療機関と連携し、精神医学的な判断を仰いだ上で、万引きを繰り返してしまう本質的な原因を解明し、その原因に対して最も適切な治療や再犯防止のための取り組みをとっていくことが重要です。
弁護活動のポイント

示談交渉
万引きは被害者のいる犯罪です。そのため、まずは、被害者の方(被害店舗)に対し、被害弁償をしなければなりません。
被害者(被害店舗)に対し、丁寧に謝罪の気持ちをお伝えし、被害弁償・示談交渉を行います。
医療機関との連携
クレプトマニアは精神障害であり、ご本人の意思によっては抑制が困難な状態にあるので、「刑罰による強制教育」によっては、問題の根本は解決しません。
むしろ、専門的な医療機関と連携し、医学的な見地からクレプトマニアの問題と向き合わなければなりません。
クレプトマニアの方に必要なのは、刑罰ではなく治療であると当事務所では考えています。
クレプトマニアの影響があったことを主張すると、検察官からは「盗んだ物は、個人的に使用するためのものだから、DSM-VのA基準を満たさず、クレプトマニアではない。」という主張がなされることがよくあります。しかし、クレプトマニアの方であっても、盗んだ物を一度も使用したことがない、という人はほとんどいません。A基準を文言通りに厳格に適用すると、この基準を満たすクレプトマニア患者は、ほとんどいなくなってしまいます。そこで、A基準は、柔軟に解釈すべきであると解されています。A基準の本質は、後段部分、すなわち、「物を盗もうとする衝動に抵抗できない」という症状にあると考えるべきです。
福祉的支援
精神障害を抱えている方を支援するために、様々な福祉サービスがあります。
二度と万引きを繰り返してしまうことがないように、また、ご本人をサポートするご家族の負担をできる限り軽減するためにも、たとえば、訪問看護や、買い物支援など、利用可能な福祉サービスを検討します。
必要な福祉サービスを選択し、利用するために、福祉の専門家である精神保健福祉士や社会福祉士の方に支援をしていただくケースも多くあります。
その内容を更生支援計画書という書類にまとめて、検察官や裁判所に提出し、万引きを繰り返してしまったこれまでとの更生・支援環境との違いを具体的に主張・立証していきます。
クレプトマニアの方であっても、上述したように、万引きを重ねれば重ねるほど、刑事罰は重くなります。もし執行猶予期間中に、再度万引きをしてしまった場合には、原則として実刑となり、刑務所に行かなければならなくなってしまいます。そのようなことにならないためには、できる限り早期に、専門的な治療につながることが大切です。
当事務所では、医療機関や福祉の専門家と連携しながら、クレプトマニアの方の治療と更生への取り組みをサポートし、ご家族の皆さまの支援のお手伝いをしております。
クレプトマニアの方・ご家族の支援に関する研修等に積極的に参加しています
クレプトマニアの病気で苦しんでいる方を支援し、病気からの回復と真の再犯防止を図るためには、法的な助言・サポートだけでは不十分であり、司法・医療・福祉の専門家が連携して支援を行うことが重要です。
当事務所の弁護士は、医療・福祉の専門家と連携しながら、ご本人、ご家族の皆さまを支援するために、医療・福祉機関が主催するクレプトマニアの方・ご家族の支援に関する研修等にも積極的に参加し、日々研鑽に努めております。
クレプトマニア(窃盗症)の解決実績