記事を執筆した弁護士
弁護士法人ルミナス 代表
弁護士 中原 潤一
弁護士法人ルミナス代表弁護士。日弁連刑事弁護センター幹事、神奈川県弁護士会刑事弁護センター委員、刑事弁護実務専門誌編集委員等を務め、全国で弁護士向けの裁判員裁判研修の講師を多数務めている。冤罪弁護に精通し、5件の無罪判決を獲得。少年事件で非行事実なしの決定等の実績を有する。逮捕・勾留されているご依頼者を釈放する活動、冤罪事件の捜査弁護活動及び公判弁護活動、裁判員裁判等に注力している。
8月10日に逮捕され、8月12日未明に保釈
香港で国家安全維持法に違反したとして8月10日に周庭氏が逮捕されたことは、日本でもニュースになっていました。
ところが、それから2日も経たないうちに保釈されたというニュースが飛び込んできました。
これには少し驚きました。
日本では、逮捕された後、48時間以内に検察官に送致され、検察官が勾留請求するかどうかを決めます。
検察官が勾留請求した場合、それから24時間以内に裁判官が勾留するか否かを決めます。
勾留されたら原則として10日間、最大で20日間勾留されることになります。
国家安全維持法の最高刑は無期懲役まであるということですから、その罰条に当たれば日本では間違いなく20日間勾留されます(と言い切っていいと思います)。
さらに、余罪などを強引に立件すれば、余罪の数×20日の分勾留されるということもあり得るでしょう。
しかし、2日も経たないうちに保釈されたということです。
日本では絶対に(と言い切っていいほど)あり得ません。
そこで、香港の刑事制度について少し調べてみました。
香港では、イギリスの制度が生きている
香港は長らくイギリスが支配してきましたが、1997年に香港の主権が中国に返還されました。
その際に成立したのが、香港特別行政区基本法(いわゆる「香港基本法」)という法律です。
香港基本法の8条は、以下のような条文になっています。
「香港の現行の法律、すなわち普通法、衡平法、条約や付属する立法、習慣法は、本法に抵触するかあるいは香港特別行政区の立法機関が改正するもの以外についてはそのまま保留する。」
つまり、香港の主権が中国に返還された後も、従前の香港の法律の維持が保障されているわけです。
したがって、香港における刑事訴追の制度は、今でも、イギリスと同様の制度を採っているということです。
原則として48時間以内に起訴するか否かを決めなければならない
もちろん例外はあるものの、逮捕された被疑者を起訴するか否かは、48時間以内の勾留期間内に決めなければならないようです。
もし、警察が起訴・不起訴の決定を48時間以内に決められない場合には、その48時間以内に被疑者を保釈させなければならないようです。
一方で、起訴前のこの保釈には被疑者の申請又は同意が必要であり、48時間以内に証拠を集められないと被疑者が考える場合には保釈に同意せず、48時間経過時に不起訴により釈放されることを狙うこともできるようです。
おそらく、周庭氏は、申請したか、警察の保釈の提案に対して同意をしたために保釈されたものと考えられます。
このような経緯を経て、48時間以内に保釈されたということになります。
日本では・・・
一方で、日本では、本日、公職選挙法違反の罪で起訴された河井夫妻の2度目の保釈請求が却下されたというニュースが入ってきました。
河井夫妻は6月18日に逮捕されたということですので、約2か月勾留されていることになりますが、それでも保釈が認められないようです。
しかも、河井夫妻は無罪を主張しているということですので、周庭氏と全く同じ境遇にあるはずの人達ということになります。
むしろ、公職選挙法違反の罪には無期懲役刑はありませんから、周庭氏よりもむしろ刑が軽いと言えるかもしれません。
しかしこの国では、数十日、数カ月、数年にわたっても、平気で勾留を続けてしまいます。
日本では、なぜか、身体活動の自由という最も重大で基本的な権利が、捜査機関の都合に劣後してしまっています。
国際的にみても、日本国憲法からみても、明らかに誤った運用がなされていると言わざるを得ません。
いつまで戦前と同じような運用をしているのか、という疑問を常に持ち続けています。
我々は、本気で、この誤った運用を変えたいと考えています。
まずは、ご依頼いただいたすべての事件で、身体拘束からの解放に最大限努力するところから始めるしかないと考えています。
弁護士法人ルミナス法律事務所横浜事務所