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弁護士法人ルミナス法律事務所 東京事務所
弁護士 大橋 いく乃

早稲田大学大学院法務研究科卒業。最高裁判所司法研修所修了後、弁護士法人ルミナス法律事務所に加入し、多数の刑事事件・少年事件を担当。第一東京弁護士会刑事弁護委員会・裁判員裁判部会委員、刑事弁護フォーラム事務局、治療的司法研究会事務局等を務める。無罪判決、再度の執行猶予判決等を獲得。精神障害を有する方の刑事弁護に注力しており、医療・福祉の専門家と連携した弁護活動に積極的に取り組んでいる。

はじめに

留置所や拘置所での生活は、日常生活とは全く異なります。慣れない環境、そして刑事手続きへの不安から、心身の不調を訴える方も多くいらっしゃいます。また、普段から持病を持っていて、服薬が必要な方もいらっしゃるでしょう。しかし、留置施設には外部から薬を持ち込んだり、差し入れたりすることはできません。
留置所や拘置所で留置されている間に、体調が悪くなった場合、または治療が必要な持病について、どのような手当てがされるのか、解説いたします。

 

 

警察署の留置施設や拘置所における医療

留置されている方に対する医療については、「刑事施設においては、被収容者の心身の状態を把握することに努め、被収容者の健康及び刑事施設内の衛生を保持するため、社会一般の保健衛生及び医療の水準に照らし適切な保健衛生上及び医療上の措置を講ずるものとする」とされています(刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律56条)。

そして以下に述べるように、大きく分けて3つの方法で、医師の診察を受けることができます。

 

 

委嘱医師による健康診断

留置されている方は皆、月2回、委嘱医師による定期健康診断を受けることができます。

この定期健康診断は、警察署長等が委嘱した医師(委嘱医師)が留置施設を訪れ、診察をする方法で行われます。

※医療費は公費負担になります。

 

■刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律61条1項

刑事施設の長は、被収容者に対し、その刑事施設における収容の開始後速やかに、及び毎年1回以上定期的に、法務省令で定めるところにより、健康診断を行わなければならない。刑事施設における保険衛生上必要があるときも、同様とする。

 

 

委嘱医師による診療

留置されている方の健康保持は、警察の責務であるとの認識の下、定期健康診断のほかに、負傷した場合や病気に罹患した場合には、都度、速やかに施設外の病院での通院治療や入院治療など、適切な医療的な措置がなされます。

※医療費は公費負担になります。

 

■刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律62条

1項 刑事施設の長は、被収容者が次の各号のいずれかに該当する場合には、速やかに、刑事施設の職員である医師等による診療を行い、その他必要な医療上の措置を執るものとする。
 1号 負傷し、若しくは疾病にかかっているとき、又はこれらの疑いがあるとき。
 2号 飲食物を摂取しない場合において、その生命に危険が及ぶおそれがあるとき。

3項 刑事施設の長は、前二項の規定により診療を行う場合において、必要に応じ被収容者を刑事施設の外の病院又は診療所に通院させ、やむを得ないときは被収容者を刑事施設の外の病院又は診療所に入院させることができる。

 

 

指名医による診療

留置されている方が、委嘱医以外の医師の診療を希望する場合、諸事情を考慮して、適当と認める場合には、その診療が認められます。

※医療費は自費負担になります。

 

■刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律63条1項

刑事施設の長は、負傷し、又は疾病にかかっている被収容者が、刑事施設の職員でない医師等を指名して、その診療を受けることを申請した場合において、傷病の種類及び程度、刑事施設に収容される前にその医師等による診療を受けていたことその他の事情に照らして、その被収容者の医療上適当であると認めるときは、刑事施設内において、自弁によりその診療を受けることを許すことができる。

 

 

おわりに

このように、規定上、体調不良時等には適切な医療上の措置を行わなければならないこととなっています。

もし、留置施設で体調が悪くなった場合には、迷わず留置や拘置所の担当者にそれを伝えるようにしてください。持病等がある場合も同様です。服薬の必要があることを伝えて、診療を求める必要があります。

もっとも、不調を訴えてもなかなか病院に連れて行ってもらえなかったり、受診はさせる予定だがいつになるか分からないなどと言って、担当者が十分な対応を取らないケースもまま見受けられます。

そういった場合には、接見時に、弁護人にそのことを伝えれば、弁護人から留置担当者や拘置所職員に対し、医師の診察を受けられるよう申し入れをすることもできます。

留置されている方のご家族の方も、面会の際、ご本人の様子がいつもと違うなど、体調を崩していそうな場合には、弁護人に対して、その旨お伝えいただければ幸いです。

 

新型コロナウィルスの感染拡大により、発熱のみならず、さまざまな症状、体調の変化で不安を抱えやすくなっていると思います。

ただでさえ、精神的に負担が大きい刑事手続きの中で、身体面での不安が重なることは、避けるべきです。

少しでもご不安があれば、弁護人にご相談ください。

 

 

弁護士法人ルミナス法律事務所

弁護士 大橋 いく乃