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弁護士法人ルミナス法律事務所 東京事務所 所長
弁護士 神林 美樹

慶應義塾大学法科大学院卒業。最高裁判所司法研修所修了後、都内の法律事務所・東証一部上場企業での勤務を経て、現在、弁護士法人ルミナス法律事務所所長。日弁連刑事弁護センター幹事、第一東京弁護士会刑事弁護委員会・裁判員部会委員等を務めている。冤罪弁護に注力し、無罪判決4件獲得。また、障害を有する方の弁護活動に力を入れており、日弁連責任能力PT副座長、司法精神医学会委員等を務めている。

当事務所では、性依存、窃盗症(クレプトマニア)などの依存症を抱える方の弁護に注力しています。

 

だれかに、または、何かに依存的になることは、だれしも経験することかもしれません。

しかし、人は合理的な判断をしますので、おのずと依存の程度にブレーキをかけますし、依存対象を違法なものに求めることは通常しません。

 

しかし、性犯罪や万引きなどの特定の犯罪行為に依存し、それがしてはいけないことであるとわかっているし、行為の後には強く後悔・反省しているにもかかわらず、その行為への衝動を抑制できずに繰り返してしまう方がいます。

このように、特定の行為への病的依存状態に陥った結果、性犯罪を繰り返してしまうことを性依存、万引きを繰り返してしまうことを窃盗症(クレプトマニア)といい、依存症の治療を行っている医療機関において、そのような状態からの回復を目指す治療が行われています。

 

刑事事件において、弁護士が相談を受ける性犯罪の背景には性依存の問題が、万引きの背景には窃盗症(クレプトマニア)の問題が存在することは、決して少なくありません。

 

性依存の方は、特定の性犯罪のみ、たとえば、痴漢をする人は痴漢だけ、盗撮をする人は盗撮だけ、露出行為(公然わいせつ罪)をする人は露出行為だけ、路上でのわいせつ行為(強制わいせつ罪)をする人は同じ態様でのわいせつ行為だけを繰り返すことがほとんどです。

 

窃盗症(クレプトマニア)の方は、個人的に用いるためでもなく、またはその金銭的価値のためでもなく、物を盗もうとする衝動に抵抗できずに、窃盗行為(万引き)を繰り返してしまいます(DSM-5:A基準)。

 

性依存や窃盗症(クレプトマニア)などの依存症は、回復はあっても、完治は難しいといわれることもあります。しかし、そのような病的依存状態に陥っている方が、二度と再犯しないためには、単に刑罰を科すだけでは不十分であり、回復のために必要な治療を受けることが大切であると思います。

 

性犯罪や万引きをしてしまった方の弁護をする中で、被害者と示談交渉をすることは多くあります。示談交渉の中で、被害者の方から、「もう二度と同じことをしないでほしい」と言われることも多くあります。ご本人やご本人の家族は勿論、被害者の方も、社会全体も、再犯防止を希求する気持ちは同じです。病的な依存状態から抜け出さなければ、ご本人は、ずっと刑事手続を行ったり来たりして、人生の大切な時間を刑事手続に費やすことになります。そのような状態が続くことは、誰も望んでいないはずです。

 

弁護士は、医療や福祉については素人ですので、治療や福祉的な支援それ自体を担うことはできません。しかし、ご本人が治療や福祉的支援を受けることを希望される場合には、医療や福祉の専門家と連携しながら弁護活動を行っています。

 

先日、共著にて、「行為依存と刑事弁護」という書籍を出版しました。

これは、当事務所の中原弁護士が企画し、行為依存の問題に注力されている弁護士、社会福祉士、研究者の先生方にお声がけをさせていただき、執筆したものです。

 

下記は、同書籍のはしがきとして、当事務所の中原弁護士が、行為依存と刑事弁護の問題に対する弁護人としての想いを綴ったものです。行為依存の問題に関する司法の歴史は浅く、未だ十分な議論がなされているとは言い難い状況ですが、刑事弁護の一翼を担う弁護士として、弁護人として何ができるのかを常に考えながら、個々の弁護活動において最善を尽くしてまいる所存です。

 

性依存、窃盗症(クレプトマニア)の方の弁護については、当事務所までご相談ください。

 

「刑事弁護に携わる中で、特定の行為を病的に繰り返してしまう方と出会うことは少なくありません。我々の依頼者は、自分のしている行為が悪いことだとわかっています。その行為をすれば、社会的・経済的な不利益が生じることも、経験して十分にわかっています。その行為を繰り返すことによって、意に反して、大切な仕事や社会的な信用を失ったり、家族を苦しめたり、盗んだ金額の100倍以上の罰金を何度も支払ったりしています。我々の依頼者の多くは、その行為をやめたいと思っています。しかし、その行為への衝動を抑えることができず、同じ行為を繰り返しては、再び刑事手続に戻ってきてしまいます。最終的には、実刑判決を受けて、刑務所に入る方も決して少なくありません。それどころか、法律の規定により、次に犯罪をしたら絶対に実刑判決になることがわかっているのに、行為をやめられず、刑務所との行き来を繰り返している方さえいます。検察官は、ただただ我々の依頼者を起訴し、裁判官は、ただただ我々の依頼者に実刑判決を下すだけです。

刑事裁判において、我々の依頼者の行為は、「常習的で悪質である」「規範意識が鈍麻している」等という評価を受けているケースがほとんどです。繰り返された行為の外形だけをみれば、そのような評価を受けることも、やむを得ないことのようにも見えます。

しかし、弁護士として、特定の性犯罪や万引き「だけ」を何度も繰り返してしまう方の弁護を担当する中で、特定行為への病的依存の実態を目の当たりにしたとき、本人の意思の弱さだけでは説明できない問題があるとしか思えないものが多数ありました。そこには、行為依存から抜け出せずに苦しんでいる本人と、本人の行為を止められずに苦悩している家族の存在があります。行為依存の問題に苦しむ方の弁護を担当する中で、特定の行為だけを病的に繰り返してしまう方の行為に対して、「常習的で悪質である」「規範意識が鈍麻している」という形式的な言葉で片付けてしまってよいのかという問題意識を持つようになりました。

本書は、行為依存の中でも、特に刑事事件となることの多い、性依存と窃盗症の2つの問題に焦点を当てて、行為依存の問題を抱える方の弁護活動、治療的アプローチについて考察しようという試みです。…(以下中略)…

本書が少しでも皆さまの弁護活動のご参考になると同時に、このような行為依存に苦しむ方々が従来の刑事手続とは切り離される「問題解決型裁判所」の導入のきっかけになったら、こんなに幸せなことはありません。」(共著『行為依存と刑事弁護』日本加除出版、令和3年、はしがきⅰ-ⅱ頁)。

 

 

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