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弁護士法人ルミナス法律事務所 埼玉事務所 所長
弁護士 田中 翔

慶應義塾大学法科大学院卒業。最高裁判所司法研修所修了後、公設事務所での勤務を経て、現在、弁護士法人ルミナス法律事務所埼玉事務所所長。日弁連刑事弁護センター幹事、埼玉弁護士会裁判員制度委員会委員、慶應義塾大学助教等を務めるほか、全国で弁護士向けの裁判員裁判研修の講師も多数務めている。冤罪弁護に注力し、無罪判決2件獲得。もし世界中が敵になっても、被疑者・被告人とされてしまった依頼者の味方として最後まで全力を尽くします。

日本の刑事手続は、全国共通です。

アメリカでは州ごとに刑事手続に関する法令が異なるため、連邦事件であるか、どこの州の事件かによって手続が異なります。

しかし、日本では刑事訴訟法が全国共通であるため、手続内容も基本的には違いはありません。

そもそも、刑事手続は、対象地域や対象者に関わりなく、全ての人に公平に行われるべきです。

もっとも、日頃刑事手続に携わっていると、細かいところではやや地域差があるように感じることがあります。

私は埼玉と東京の事件を多く扱っているので、今回は埼玉と東京との違いについて少しお話します。

 

 

捜査段階の違い

埼玉と東京で大きく異なるのは、検察官による勾留請求と裁判官の勾留質問のタイミングです。

これが、埼玉と東京で最も異なる点といえます。

 

逮捕されると、その翌日又は翌々日に、検察庁に行って取調べを受けます。

ここまでは、埼玉でも東京でも、あるいはその他の地域でも、異なることはありません。

しかし、その先が少し異なります。

埼玉では、検察官が取調べをして勾留を請求することとした場合、その日のうちに裁判所に移動させられて勾留質問を受けて、勾留されるか否かが決まります(検察官の取調べの後であることから、裁判官の勾留質問は夕方になることが多い)。

一方、東京では、霞が関の検察庁に行き検察官が取調べをして勾留請求をしても、その日は一度警察署の留置施設に戻されます。

そして、翌日、もう一度霞が関の裁判所に行き、勾留質問を受けて勾留されるか否かが判断されます。

このように、東京では、2日間にわたり、検察官の取調べと裁判官による勾留質問が行われます。

他方で、埼玉では、1日のうちに、検察官の取調べと裁判官による勾留質問が行われます。

 

これは、法律にそうなると書いてあるわけではなく、そのような運用になっているというものです。

このようになっている理由も公表されているわけではなく、必ずしも明らかではありません。

東京では、1日あたりの検察庁と裁判所で行われる取調べと勾留質問の件数が多く、裁判所が午前から勾留質問を行わないと時間的に遅くなってしまうことなどから、このような運用になっているのではないかと思います。

なお、東京では、勾留や保釈などの令状事務のみを取り扱う東京地方裁判所刑事第14部という部署が設けられています。このいわゆる「14部」が全ての勾留質問を行っています。

 

東京のように、検察官の取調べと裁判官による勾留質問が2日間に分けられるのはむしろ例外的です。

日本の全地域の運用を把握しているわけではないですが、東京のような運用は東京のみであり、立川支部を含めてその他の地域では、埼玉のように1日のうちに取調べと勾留質問を行っているようです。

(注:事件によっても例外はあります)

 

少し立ち止まって考えたとき、東京の運用には問題があるといえます。

埼玉では、検察官が勾留請求をしたが裁判官が勾留請求を却下する場合(つまり釈放させる場合)、検察官の取調べをした日に釈放されます。

例えば、1日目逮捕、2日目検察官の取調べ・裁判官による勾留質問となった場合、逮捕された翌日夕方頃に釈放されます。

しかし、東京では、検察官が勾留請求をしたが裁判官が勾留請求を却下する場合でも、検察官の取調べをした翌日に釈放される仕組みになっています。

つまり、東京では、1日目逮捕、2日目検察官の取調べ、3日目裁判官による勾留質問となることから、実際に釈放されるのは逮捕されてから3日目です。

このように、埼玉では逮捕から2日目に釈放されるようなケースであっても、東京では逮捕から3日目に釈放されることになり、釈放が1日遅れてしまいます。

逮捕されている被疑者の方にとって、1日の違いは非常に大きなものです。

日曜日に釈放されれば月曜に出社できるのに、月曜日に釈放されるから会社を休まなければならないというようなことは、普段から目にするところです。

 

 

刑事手続は、全ての人に対し公平に行われなければなりません。

しかし、現状では、どこで逮捕されるかによって、釈放されるタイミングに違いが出るという不公平さがあるように思います。

 

いずれにしても、勾留を阻止して早期の釈放を目指す場合には、このようなスケジュールで手続が行われることを念頭におく必要があります。

 

その他には、ニッチな違いとして、埼玉では差入れの用紙に押印が必要だが東京では押印不要などの違い、差入れ用紙の書式の違い(差入れ物品の欄の数が東京の方が多い)などがありますが、捜査段階において埼玉と東京での違いは、特別感じることはありません。

 

 

公判段階の違い

結論からいうと、公判手続では、埼玉と東京で違いを感じることはありません。

しいていえば、証拠の謄写(コピー)が、埼玉の方が少し遅いことが多いというくらいでしょうか。

 

保釈では、保釈請求を出してから決定が出るまで、東京の方が少し遅いという印象があります。

これは、東京では、件数が多いことから、1日に何度かまとめて裁判所から検察庁に記録の受け渡しを行う定期便のようなものがあり、埼玉では保釈請求があったつど検察庁と裁判所での記録の受け渡しを行っているという影響があるのではないかと思います。

 

また、勾留されたまま起訴された場合、しばらくして警察署から拘置所に移送されることになります。

移送のタイミングは、東京では起訴されてから2~3週間くらいが多いイメージですが、埼玉だと数か月経っても警察署のことが少なくありません。

これは、東京では東京拘置所という全国的に見ても大規模な施設が存在しており、拘置所の定員に余裕があるからだと考えられます。

 

 

まとめ

このように、埼玉と東京で、刑事手続の違いは多くありません。

しかし、勾留質問のタイミングなど、勾留阻止に向けた活動を行うにあたって、(運用の当否はさておき)ぜひとも把握しておかなければならない違いもあります。

当事務所では、関東近郊の刑事事件に多くの経験があります。

刑事事件は、ぜひ当事務所にご相談ください。

 

 

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弁護士 田中翔