記事を執筆した弁護士

弁護士法人ルミナス 代表
弁護士 中原 潤一

弁護士法人ルミナス代表弁護士。日弁連刑事弁護センター幹事、神奈川県弁護士会刑事弁護センター委員、刑事弁護実務専門誌編集委員等を務め、全国で弁護士向けの裁判員裁判研修の講師を多数務めている。冤罪弁護に精通し、5件の無罪判決を獲得。少年事件で非行事実なしの決定等の実績を有する。逮捕・勾留されているご依頼者を釈放する活動、冤罪事件の捜査弁護活動及び公判弁護活動、裁判員裁判等に注力している。

目次

1.改正刑法が施行
2. 性交同意年齢が16歳に引き上げられました
3.不同意性交等罪、不同意わいせつ罪に問われる類型が列挙されました
4.不同意性交等罪、不同意わいせつ罪の問題点

 

 

1 改正刑法が施行

本日(令和5年7月13日)、強制性交等罪を不同意性交等罪に、強制わいせつ罪を不同意わいせつ罪に改正する刑法が施行されました。

今後は、不同意性交等罪・不同意わいせつ罪に該当する行為が処罰の対象となりますので、注意が必要です。

今回のコラムでは、不同意性交等罪・不同意わいせつ罪に関する改正のうち、特に注意が必要な事項についてお伝えいたします。

 

 

2 性交同意年齢が16歳に引き上げられました

これまで性交同意年齢は13歳とされていました。

すなわち、13歳以上であれば、同意のある性交等は処罰の対象となっていなかった一方で、13歳未満との間では、同意があったとしても性交等をすれば強制性交等罪として処罰されていました。

しかしながら、今回の改正で、性交同意年齢が16歳に引き上げられました

そのため、これまで青少年保護育成条例違反の罪や児童福祉法違反、児童買春などの罪として処罰されていた13歳から16歳未満の未成年に対する性交等やわいせつな行為は、不同意性交等罪又は不同意わいせつ罪として処罰されることになります。不同意性交等罪の法定刑は、下限が懲役5年以上ですので、原則として実刑判決を受けてしまうことになります。

ちなみに、13歳から16歳未満の未成年に対する性交等やわいせつな行為が処罰されるのは、5歳以上年齢が離れている場合のみです。ですので、中学生同士、高校生同士の性交等やわいせつな行為は処罰されないことになっています。

 

 

3 不同意性交等罪、不同意わいせつ罪に問われる類型が列挙されました

これまでは、「暴行脅迫」や「心神喪失又は抗拒不能」という要件のみが条文化され、それに当たるか否かは解釈によって決まっていましたが、今回の改正で、不同意性交等罪、不同意わいせつ罪に問われる類型(行為・事由)が以下のように列挙されました。

 

⑴暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。

⑵心身の障害を生じさせること又はそれがあること。

⑶アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。

⑷睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。

⑸同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。

⑹予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕(がく)させること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。

⑺虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。

⑻経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。

 

上記の8類型(行為・事由)により、「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて」、性交等をした場合には、不同意性交等罪(177条1項)が、わいせつな行為をした場合には、不同意わいせつ罪(176条1項)が成立します。

なお、条文は以下のようになっています。

 

(不同意わいせつ)

第百七十六条 次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、六月以上十年以下の拘禁刑に処する。

 一 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。

 二 心身の障害を生じさせること又はそれがあること。

 三 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。

 四 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。

 五 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。

 六 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕(がく)させること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。

 七 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。

 八 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。

 

2 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、わいせつな行為をした者も、前項と同様とする。

 

3 十六歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。

 

(不同意性交等)

第百七十七条 前条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、性交、肛(こう)門性交、口腔(くう)性交又は膣(ちつ)若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなもの(以下この条及び第百七十九条第二項において「性交等」という。)をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、五年以上の有期拘禁刑に処する。

 

2 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、性交等をした者も、前項と同様とする。

 

3 十六歳未満の者に対し、性交等をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。

 

 

4 不同意性交等罪、不同意わいせつ罪の問題点

これまでの条文と異なり、不同意性交等罪、不同意わいせつ罪に当たる類型が明示されたこと自体は、刑罰の予測可能性という観点からは肯定されるべきかと思います。しかし、不同意性交等罪、不同意わいせつ罪は、上記条文にある通り、「次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由」と規定されており、この「これらに類する行為又は事由」というのが何を指すのかが不明であると言わざるを得ません。列挙されている類型も必ずしも明確であるとは言えません(例えば、「アルコール等の影響」「明瞭でない状態」「いとまがない」「心理的反応」「憂慮」など)。これでは、刑罰法規に要求される明確性の原則を書いているとの評価せざるを得ないのではないでしょうか。

刑事裁判では、「事例の集積を待つ」などとは言っていられません。冤罪を発生させてしまえば、取り返しのつかない事態が生じるからです。

当事務所では、不同意性交等罪に問われた方については、これらの構成要件該当性の有無の検討を怠ることなく弁護活動をする予定です。不同意性交等罪のご相談は、弁護士法人ルミナス法律事務所までお寄せください。

 

 

弁護士法人ルミナス法律事務所横浜事務所

弁護士 中原潤一