記事を執筆した弁護士

弁護士法人ルミナス法律事務所 横浜事務所
弁護士 南里 俊毅

上智大学法科大学院入学後、司法試験予備試験・司法試験合格。最高裁判所司法研修所修了後に、弁護士法人ルミナス法律事務所横浜事務所に加入し、多数の刑事事件・少年事件を担当。神奈川県弁護士会刑事センター運営委員会・裁判員裁判部会委員、刑事弁護フォーラム事務局等を務める。逮捕・勾留からの早期釈放、示談交渉、冤罪弁護、公判弁護活動、裁判員裁判等、あらゆる刑事事件・少年事件に積極的に取り組んでいる。

目次

1. 改正法の概要
2. 保釈の現状
3. 位置情報取得制度の展望
4. おわりに

 

 

改正法の概要

2023年5月10日、刑事訴訟法等の一部を改正する法律が成立し、2023年5月17日に公布されました。

今回の改正には、保釈等をされた被告人の公判期日への不出頭罪(刑訴法278条の2)、制限住居離脱罪(95条の3)、報告命令制度(95条の4,96条1項)、監督者制度(98条の4,98条の8、98条の9)、位置測定端末により保釈されている被告人の位置情報を取得する制度(98条の12、98条の18、98条の19、98条の24)などが含まれます。

今回は、あらたに創設された、位置測定端末により保釈されている被告人の位置情報を取得する制度について、解説します。この制度は、被告人の逃亡防止措置の一環として創設されました。国外への逃亡防止目的で、「位置情報端末」(GPS端末)により保釈等されている被告人の位置情報を取得する制度です。

この位置情報取得制度については、公布日から起算して5年以内に施行される予定です。

 

 

保釈の現状

従前より、保釈請求を行う際に、弁護人側から、スマートフォンに位置情報共有アプリをインスールしこれを携帯してもらい、位置情報を親族と共有してもらうなど、GPS端末の装着に近い方策を講じることはありました。

このような措置を講じていることを踏まえ、罪証隠滅や逃亡の現実的な可能性はないことを主張してきました。このような措置は、一定程度評価されることもありました。しかし、裁判所は、このような措置を講じることなどの事情を踏まえても、保釈を許可しないということも少なくありません。

長期間の身体拘束がされてしまうことは、無罪が推定されているはずの被告人に、家族と十分に会うことができなかったり、職を失ってしまったりすることや、身体拘束によって精神状態が悪化してしまうことなど、深刻な身体的精神的苦痛を与えます。

非常に残念なことですが、少しでも早く保釈が認められる可能性があるなら、公判で無罪を主張することをやめたい、事実を争うことをやめたい、証人尋問を行うことをやめたい、といった意向を伺うことは少なくないのが現状です。私も、公判で無罪を主張することをあきらめさせられる現状を目の当たりにしてきました。無罪を主張する被告人に長期間の身体拘束がされ、無罪主張をあきらめさせる、まさに人質司法と呼ばれる現象です。

日本弁護士連合会(日弁連)は、2020年11月17日、「人質司法」の解消を求める意見書を提出しています。しかし、ここで指摘されている人質司法は、(黙秘権を行使する被疑者の身体拘束が長期化する点も含め、)未だに解消されていません。

 

 

位置情報取得制度の展望

今回創設された位置情報取得制度は、「被告人が国外に逃亡することを防止するため、その位置及び当該位置に係る時刻を把握する必要があると認めるとき」に位置測定端末の装着を命ずることができるとしたものです。

制度の創設については、弁護士間でも賛否が分かれてきたと思います。制度創設自体の賛否は措きますが、GPS端末を装着し、特定区域への立入が禁止されることになれば、被告人のプライバシーが侵害され、行動の自由が制限されるという側面があることは間違いありません。位置情報取得の仕方によっては、行動の萎縮をも招きかねないものであり、不必要な場合に装着させるべきではありません。

そして、保釈の現状を踏まえれば、安易にGPS端末の装着が命じられるというのが杞憂に過ぎないとはいえません。万が一にも、これまでも保釈がされるような事案において、安易にGPS端末の装着を命じられるという誤った運用がされないよう弁護活動をしていく必要があります。

日弁連は、今回の改正を踏まえて、2023年5月10日、「刑事訴訟法等の一部を改正する法律」の成立に当たり、保釈の運用の適正化を求める会長声明を発しています。

この会長声明でも指摘がありますが、今回の刑事訴訟法改正により身体拘束の代替措置が拡充されたということができます。

GPS端末の装着が被告人の権利を侵害する側面はありますが、他方で、保釈が許可されず身体拘束が継続すれば、自由に外に出ることはできず、面会できる人や時間も制限され、弁護人との打合せもアクリル板越しに行わなければならないうえ、場所的時間的な制約が生じます。このような身体拘束が継続することに比べ、GPS端末の装着は、より制限的でない代替措置のひとつではあるといえます。

現状、位置情報取得制度は国外への逃亡防止を想定していますが、弁護士としては、今回の位置情報取得制度が創設されることをも踏まえ、少しでも人質司法がはびこる現状を打開させなければなりません。GPS端末の装着が無ければ保釈されなかったような場合に、GPS端末の装着を受け入れることで被告人が保釈されるよう、日々の弁護実践から変えていく必要があります。

 

 

おわりに

当事務所では、あらたな制度に関する動向にも注視しつつ、日々の弁護活動を行っています。より制限的でない代替措置を提示するなどして、できる限り早期の保釈を求めます。とくに無罪を主張する事件等において、早期の保釈は、一定の自由を取り戻すだけでなく、被告人自らインターネットを使い情報を収集したり、弁護人と昼夜を問わず打合せを行ったりすることを可能にし、防御に遺漏が無いようにするためにきわめて重要です。

 

 

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