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弁護士法人ルミナス法律事務所 東京事務所 所長
弁護士 神林 美樹

慶應義塾大学法科大学院卒業。最高裁判所司法研修所修了後、都内の法律事務所・東証一部上場企業での勤務を経て、現在、弁護士法人ルミナス法律事務所所長。日弁連刑事弁護センター幹事、第一東京弁護士会刑事弁護委員会・裁判員部会委員等を務めている。冤罪弁護に注力し、無罪判決4件獲得。また、障害を有する方の弁護活動に力を入れており、日弁連責任能力PT副座長、司法精神医学会委員等を務めている。

 

 

目次

刑事訴訟法改正のポイント
性犯罪についての公訴時効期間の延長
条文
改正の概要
施行日
聴取結果を記録した録音・録画媒体に係る証拠能力の特則
条文
改正の概要
施行日

 

 

刑事訴訟法改正のポイント

令和5年6月16日に、「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」(令和5年法律第66号、以下「改正法」といいます)が成立し、同月23日に公布されました。

 

改正法によって、刑法及び刑事訴訟法の性犯罪規定が改正されています。

 

今回は、改正法のうち、刑事訴訟法改正部分(以下「改正刑訴法」といいます)のポイントについて解説します。

 

改正刑訴法のポイントは、2点です。

 

ポイント➀:

性犯罪についての公訴時効期間の延長

 

ポイント➁:

聴取結果を記録した録音・録画記録媒体に係る証拠能力の特則の新設

 

以下、それぞれの改正のポイントについて、解説します。

 

なお、改正法のうち、刑法改正部分については、以下のコラムをご参照ください。

 

>性犯罪規定が改正されました➀~刑法改正のポイント

 

 

性犯罪についての公訴時効期間の延長

条文

公訴時効期間について定める刑事訴訟法250条が改正され、3項・4項が新設されました。

 

改正前の条文は、以下のとおりです(1項・2項のみ)。

 

(改正前)

第250条

1 時効は、人を死亡させた罪であって禁錮以上の刑に当たるもの(死刑に当たるものを除く。)については、次に掲げる期間を経過することによって完成する。

➀無期の懲役又は禁錮に当たる罪については30年

➁長期20年の懲役又は禁錮に当たる罪については20年

➂前二号掲げる罪以外の罪については10年

 

2 時効は、人を死亡させた罪であって禁錮以上の刑に当たるもの以外の罪については、次に掲げる期間を経過することによって完成する。

➀死刑に当たる罪については25年

➁無期の懲役又は禁錮に当たる罪については15年

➂長期15年以上の懲役又は禁錮に当たる罪については10年

➃長期15年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については7年

➄長期10年未満の懲役又は禁錮に当たる罪については5年

➅長期5年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金に当たる罪については3年

➆拘留又は科料に当たる罪については1年

 

上記の内容に変更はなく、改正刑訴法では、同条に3項・4項が追加されています。

追加された内容は、以下のとおりです。

 

(改正刑訴法)

第250条

3 前項の規定にかかわらず、次の各号に掲げる罪についての事項は、当該各号に定める期間を経過することによって完成する。

➀刑法第八十一の罪(人を負傷させたときに限る。)若しくは同胞第二百四十一条第一項の罪又は盗犯等の防止及び処分に関する法律(昭和五年法律第九号)第四条の罪(同項の罪に係る部分に限る。) 二十年

➁刑法第百七十七条、第百七十八条第二項若しくは第百七十九条第二項又はこれらの罪の未遂罪 十五年

➂刑法第百七十六条、第百七十八条第一項若しくは第百七十九条第一項の罪若しくはこれらの罪の未遂罪又は児童福祉法第六十条第一項の罪(自己を相手方として淫行をさせる行為に係るものに限る。) 十二年

 

4 前二項の規定にかかわらず、前項各号に掲げる罪について、その被害者が犯罪行為が終わつた時に十八歳未満である場合における事項は、当該各号に定める期間に当該犯罪行為が終わつた時から当該被害者が十八歳に達する日までの期間に相当する期間を加算した期間を経過することによって完成する。

 

改正の概要

一部の性犯罪について、公訴時効期間が5年間延長されました。

改正対象の主な罪名は、以下のとおりです。

 

罪名 公訴時効期間

不同意わいせつ等致傷罪

強盗・不同意性交等罪など

15年から20年に延長

不同意性交等罪

監護者性交等罪など

10年から15年に延長

不同意わいせつ罪

監護者わいせつ罪など

7年から12年に延長

 

さらに、上記の罪について、被害者が18歳未満である場合には、犯罪行為が終わったときから被害者が18歳に達する日までの期間が加算されます。

 

 

施行日

上記改正(性犯罪についての公訴時効期間の延長)は、令和5年6月23日から、施行されています。

 

 

聴取結果を記録した録音・録画媒体に係る証拠能力の特則

条文

改正刑訴法312条の3が新設されました。

条文は、以下のとおりです。

 

第321条の3

1 第一号に掲げる者の供述及びその状況を録音及び録画を同時に行う方法により記録した記録媒体(その供述がされた聴取の開始から終了に至るまでの間における供述及びその状況を記録した者に限る。)は、その供述が第二号に掲げる措置が特に採られた情況の下にされたものであると認める場合であって、聴取に至るまでの情況その他の事情を考慮し相当と認めるときは、第三百二十一条第一項の規定にかかわらず、証拠とすることができる。この場合において、裁判所は、その記録媒体を取り調べた後、訴訟関係人に対し、その供述者を証人として尋問する機会を与えなければならない。

 

一 次に掲げる者

イ 刑法第百七十六条、第百七十七条、第百七十九条、第百八十一条若しくは第百八十二条の罪、同法第二百二十五条若しくは第二百二十六条の二第三項の罪(わいせつ又は結婚の目的に係る部分に限る。以下このイにおいて同じ。)、同法第二百二十七条第一項(同法第二百二十五条又は第二百二十六条の二第三項の罪を犯した者を幇助する目的に係る部分に限る。)若しくは第三項(わいせつの目的に係る部分に限る。)の罪若しくは同法第二百四十一条第一項若しくは第三項の罪又はこれらの罪の未遂罪の被害者

ロ 児童福祉法第六十条第一項の罪若しくは同法第十四条第一項第九号に係る同法第六十条第二項の罪又は児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律第四条から第八条までの罪の被害者

ハ イ及びロに掲げる者のほか、犯罪の性質、供述者の年齢、心身の状態、被告人との関係その他の事情により、更に公判準備又は公判期日において供述するときは精神の平穏を著しく害するおそれがあると認められる者

 

二 次に掲げる措置

イ 供述者の年齢、心身の状態その他の特性に応じ、供述者の不安又は緊張を緩和することその他の供述者が十分な供述をするために必要な措置

ロ 供述者の年齢、心身の状態その他の特性に応じ、誘導をできる限り避けることその他の供述の内容に不当な影響を与えないようにするために必要な措置

 

2 前項の規定により取り調べられた記録媒体に記録された供述者の供述は、第二百九十五条第一項前段の規定の適用については、被告事件の公判期日においてされたものとみなす。

 

 

改正の概要

「特定の聴取対象者からの聴取結果を記録した録音・録画媒体」について、以下の要件⑴及び⑵を満たす場合には、証拠能力の特則(伝聞例外)が設けられました。

 

聴取対象者・要件・効果は、以下の表に記載したとおりです。

 

聴取対象者

特定の性犯罪の被害者

・ 不同意わいせつ罪

・ 不同意性交等罪

・ 監護者わいせつ罪

・ 監護者性交等罪

・ 不同意わいせつ等致傷罪

・ 16歳未満の者に対する面会要求等の罪など

 

特定の児童福祉法違反・児童ポルノ法違反事件の被害者

 

犯罪の性質、供述者の年齢、心身の状態、被告人との関係その他の事情により、更に公判準備又は公判期日において供述するときは精神の平穏を著しく害するおそれがあると認められる者

 

要件

⑴ 供述が、一定の措置が特に採られた情況の下でなされたものであると認めるとき

 

➀供述者の年齢、心身の状態その他の特性に応じ、供述者の不安又は緊張を緩和することその他の供述者が十分な供述をするために必要な措置

 

➁供述者の年齢、心身の状態その他の特性に応じ、誘導をできる限り避けることその他の供述の内容に不当な影響を与えないようにするために必要な措置

 

⑵ 聴取に至るまでの情況その他の事情を考慮して相当と認めるとき

 

効果

321条1項の規定に関わらず、証拠とすることができる(伝聞例外)。

 

この場合において、裁判所は、その記録媒体を取り調べた後、訴訟関係人に対し、その供述者を証人として尋問する機会を与えなければならない。

 

 

施行日

上記改正(改正刑訴法321条の3)については、公布日である「令和5年6月23日から6カ月以内」に施行される予定となっています。

 

改正法は、「性犯罪に関する施策検討に向けた実態調査ワーキンググループ」(平成30年4月~)、「性犯罪に関する刑事法検討会」(令和2年6月~)、「法制審議会-刑事法(性犯罪関係)部会」(令和3年10月~)での議論を経て成立しましたが、弁護人として検討すべき点が多く含まれています。

 

特に、改正刑訴法第323条の3の実務上の運用に関しては、重大な懸念点が指摘されているところです。

 

当事務所では、改正刑訴法の内容だけでなく、改正の経緯や、実務的な問題の所在等についても正しく理解し、依頼者を護るために改正刑訴法下における最善の弁護活動を実践してまいります。

 

 

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