記事を執筆した弁護士
弁護士法人ルミナス法律事務所 東京事務所 所長
弁護士 神林 美樹
慶應義塾大学法科大学院卒業。最高裁判所司法研修所修了後、都内の法律事務所・東証一部上場企業での勤務を経て、現在、弁護士法人ルミナス法律事務所所長。日弁連刑事弁護センター幹事、第一東京弁護士会刑事弁護委員会・裁判員部会委員等を務めている。冤罪弁護に注力し、無罪判決4件獲得。また、障害を有する方の弁護活動に力を入れており、日弁連責任能力PT副座長、司法精神医学会委員等を務めている。
目次
性的姿態撮影等処罰法のポイント |
「性的姿態等撮影罪」などの新設 |
性的な姿態を撮影する行為により生じた物を複写した物等の没収 |
押収物に記録された性的な姿態の映像に係る電磁的記録の消去・廃棄 |
終わりに |
性的姿態撮影等処罰法のポイント
令和5年6月16日に、「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」(令和5年法律第66号)が成立し、刑法及び刑事訴訟法の性犯罪規定が改正されました。
上記改正と併せて、同日、新たな法律として「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の映像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」(令和5年法律第67号、いわゆる「性的姿態撮影等処罰法」)が成立し、同月23日に公布されています。
今回は、性的姿態撮影等処罰法のポイントについて解説します。
刑法及び刑事訴訟法の改正のポイントについては、以下のコラムをご参照ください。
性的姿態撮影等処罰法のポイントは、以下の3点です。
ポイント➀:
「性的姿態等撮影罪」などの新設
ポイント➁:
性的な姿態を撮影する行為により生じた物を複写した物等の没収
ポイント➂:
押収物に記録された性的な姿態の映像に係る電磁的記録の消去・廃棄
それぞれのポイントについて、解説します。
「性的姿態等撮影罪」などの新設
性的姿態撮影等処罰法2条~6条により、以下の罪が新設されました。
①性的姿態等撮影罪(2条)
②性的映像記録提供罪(3条)
③性的映像記録保管罪(4条)
④性的姿態等映像送信罪(5条)
⑤性的姿態等映像記録罪(6条)
これまでも盗撮等の一定の行為については、各都道府県の定める迷惑防止条例や、児童ポルノ禁止法等で処罰されてきました。
しかし、迷惑防止条例の内容には、地域差がありますし、児童ポルノ禁止法の保護対象は「18歳未満の児童」に限られるため、迷惑防止条例や児童ポルノ禁止法では対応できないケースが存在しました。
そのような状況を踏まえて新設されたのが、性的姿態撮影等処罰法の処罰規定です。
性的姿態撮影等処罰法2条~6条に定める罪の対象行為と法定刑は、以下のとおりです。
「性的姿態等撮影罪」
対象行為
➀正当な理由がないのに、ひそかに、性的姿態等(人の性的な部位、人が身に着けている下着、 わいせつな行為・性交等がされている間における人の姿態)を撮影
➁刑法176条1項各号の行為・事由その他これらに類する行為・事由により、同意しない意思 を形成、表明若しくは全うすることが困難な状態にさせ、又はその状態にあることに乗じて、人の性的姿態等を撮影
➂行為の性質が性的なものではないとの誤信をさせ、若しくは特定の者以外の者が閲覧しないとの誤信をさせ、又はそれらの誤信をしていることに乗じて、人の性的姿態等を撮影
➃正当な理由がないのに、16歳未満の者の性的姿態等を撮影(ただし、相手が13歳以上16歳未満の場合には、行為者が5歳以上年長である場合に限る)
法定刑
3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金
「性的映像記録提供罪」
対象行為
➀「性的姿態等撮影罪」又は「性的姿態等記録罪」に該当する行為によって撮影・記録された 性的姿態等の画像(性的映像記録)を特定・少数の者に提供
➁性的映像記録を不特定・多数の者に提供、又は公然陳列
法定刑
➀3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金
➁5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金又は併科
「性的映像記録保管罪」
対象行為
提供又は公然陳列の目的で、性的映像記録を保管
法定刑
2年以下の拘禁刑又は200万円以下の罰金
「性的姿態等影像送信罪」
対象行為
不特定・多数の者に対し、「性的姿態等撮影罪」の➀~➃と同じ方法で、性的姿態等の映像を送信(ライブストリーミング)
法定刑
5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金又は併科
「性的姿態等影像記録罪」
対象行為
「性的姿態等撮影罪」の➀~➃と同じ方法で映像送信をされた性的姿態等の映像について、情を知って記録
法定刑
3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金
上記処罰規定の新設については、令和5年7月13日から施行されています。
したがって、令和5年7月13日以降に行われた行為については、上記処罰規定が適用されることになります。
性的な姿態を撮影する行為により生じた物を複写した物等の没収
性的姿態撮影等処罰法8条により、以下➀➁の複写物についても、没収(付加刑)の対象となりました。
➀「性的姿態等撮影罪」又は「性的姿態等映像記録罪」の犯罪行為により生じた物
➁「私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律」(いわゆるリベンジポルノ法)違反の罪の犯罪行為を組成し、若しくは犯罪行為の用に供した私事性的画像記録の記録物
上記没収規定についても、令和5年7月13日から施行されています。
押収物に記録された性的な姿態の映像に係る電磁的記録の消去・廃棄
検察官が保管する押収物に記録されている電磁的記録について、行政手続として消去・廃棄等の措置をとることが可能となりました。
性的姿態撮影等処罰法9条以下において、対象となる押収物、措置の内容、手続、罰則が定められています。
対象となる押収物は、以下のとおりです。
➀「性的姿態等撮影罪」又は「性的姿態等映像記録罪」に該当する行為により生じた物
➁リベンジポルノ
➂児童ポルノ
上記規定については、公布日である「令和5年6月23日から1年以内」に施行予定です。
終わりに
今回新設された「性的姿態等撮影罪」などは、これまでの迷惑防止条例におけるいわゆる盗撮の罪などに比べて、法定刑が非常に重くなっています。
令和5年7月13日以降の撮影行為については、迷惑防止条例違反ではなく、性的姿態等撮影罪により検挙される可能性があり、実際に、すでに性的姿態等撮影罪により逮捕され、報道されているケースも存在します。
当事務所では、性的姿態撮影等処罰法の内容だけなく、同法制定の経緯や、撮影行為等をめぐる最新の議論状況についても正しく理解し、依頼者を護るために最善の弁護活動を実践してまいります。
性的姿態等撮影罪などに関するご相談は、当事務所まで、ご連絡ください。
弁護士法人ルミナス法律事務所