記事を執筆した弁護士
弁護士法人ルミナス法律事務所 埼玉事務所 所長
弁護士 田中 翔
慶應義塾大学法科大学院卒業。最高裁判所司法研修所修了後、公設事務所での勤務を経て、現在、弁護士法人ルミナス法律事務所埼玉事務所所長。日弁連刑事弁護センター幹事、埼玉弁護士会裁判員制度委員会委員、慶應義塾大学助教等を務めるほか、全国で弁護士向けの裁判員裁判研修の講師も多数務めている。冤罪弁護に注力し、無罪判決2件獲得。もし世界中が敵になっても、被疑者・被告人とされてしまった依頼者の味方として最後まで全力を尽くします。
目次
刑事訴訟法等の一部を改正する法律が成立しました
令和5年5月10日に、刑事訴訟法等の一部を改正する法律(令和5年法律第28号)が成立し、同月17日に公布されました。
本改正では、保釈等に関する重要な改正が行われています。
保釈等に関する改正点を中心に、刑事弁護活動を行う上での本改正の重要なポイントについて、5回にわけて、弁護士が解説します。
今回は、「拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告を受けた者等に係る出国制限制度の創設」について、説明します。
本制度は、実刑判決を受けた者は,裁判所の許可を受けた場合を除いて出国してはならないこと、出国を許可するときは帰国保証金を納付させて許可された期間内に帰国しない場合などには帰国保証金を没取することができる旨を定めています。
拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告を受けた者等に係る出国制限制度の創設
本改正によって、拘禁刑以上の実刑の言渡しを受けた者等が出国により刑の執行を免れることを防止するために、以下の規定が新設されました。
- 拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告を受けた者に係る出国制限(342条の2)
- 出国制限を受けた者についての出国許可の請求(342条の3)
- 裁判所による出国許可(342条の4)
- 出国許可における帰国等保証金(342条の5、342条の6)
- 出国許可の取消し(342条の7、342条の8)
- 罰金の裁判の告知を受けた被告人に対する出国制限(345条の2~345条の4)
以下、それぞれの具体的な内容について、紹介します。
拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告を受けた者に係る出国制限(342条の2)
⑴ 条文
刑事訴訟法342条の2
「拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告を受けた者は、裁判所の許可を得なければ本邦から出国してはならない。」
⑵ 対象者
拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告を受けた者
⑶ 内容
裁判所の許可を受けなければ、日本国から出国することができない。
本制度の対象者は、拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告を受けた者となっており、実刑判決を受けたもの全てが対象です。
この点で、後述の「罰金の裁判の告知を受けた被告人に対する出国制限」は執行猶予の言い渡しがある判決が除外されており、本制度と異なっています。
出国制限を受けた者についての出国許可の請求(342条の3)
⑴ 条文
刑事訴訟法342条の3
「拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告を受けた者又はその弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹は、前条の許可の請求をすることができる。」
⑵ 出国許可の請求ができる者(請求権者)
①本人 ②弁護人 ③本人の法定代理人、保佐人
④本人の配偶者、直系親族(本人の子や孫、父母など)若しくは兄弟姉妹
裁判所による出国許可(342条の4)
⑴ 条文
刑事訴訟法342条の4
⑵ 出国許可の決定(同条1項)
出国の請求があった場合、裁判所は、日本国から出国することを許すべき特別の事情があると認めるとき、決定で、国外にいることができる期間(指定期間)を指定して、出国許可をすることができる。
ただし、入管法(正式名:「出入国管理及び難民認定法」)第40条に規定する収容令書又は入管法第51条に規定する退去強制令書の発布を受けている者については、この限りでない。
(3) 「特別の事情」の有無の判断(同条第2項)
出国の「許可がされた場合に拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告を受けた者が同項(執筆者注:342条の2)の規定により指定する期間内に本邦に帰国せず又は上陸しないこととなるおそれの程度のほか、本邦から出国することができないことによりその者が受ける不利益の程度その他の事情を考慮するものとする。」
出国許可の決定について、同条ただし書では、入管法による強制退去処分を受けている者について、強制退去事由が存することを理由に勾留できると定めています。
また、裁判所が出国許可の決定をする際には、検察官の意見を聴かなければなりません(同条第3項)。
そして、指定期間は裁判所によって延長・短縮ができるとされ(同条4第4項・第5項)、渡航先の制限をするほか適当な条件を付けることができるとされています(342条の5第3項)。
342条の4
1 裁判所は、前条の請求があつた場合において、本邦から出国することを許すべき特別の事情があると認めるときは、決定で、国外にいることができる期間を指定して、第342条の2の許可をすることができる。ただし、出入国管理及び難民認定法(昭和26年政令第319号。以下「入管法」という。)第40条に規定する収容令書又は入管法第51条に規定する退去強制令書の発付をうけている者については、この限りでない。
2 裁判所は、前項本文に規定する特別の事情の有無を判断するに当たつては、第342条の2の許可がされた場合に拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告を受けた者が同項の規定により指定する期間内に本邦に帰国せず又は上陸しないこととなるおそれの程度のほか、本邦から出国することができないことによりその者が受ける不利益の程度その他の事情を考慮するものとする。
3 裁判所は、前条の請求について決定をするときは、検察官の意見を聴かなければならない。
4 裁判所は、必要と認めるときは、第1項本文の期間を延長することができる。
5 裁判所は、第342条の2の許可を受けた者について、国外にいることができる期間として指定された期間(以下「指定期間」という。)の終期まで国外にいる必要がなくなつたと認めるときは、当該指定期間を短縮することができる。
帰国等保証金の納付(342条の5、342条の6)
⑴ 条文
刑事訴訟法342条の5、342条の6
⑵ 帰国等保証金(342条の5)
裁判所は、出国許可をする場合には、帰国等保証金額を定めなければならない。
ただし、保釈許可決定を受けた被告人について出国許可をするときには、この限りでない。
⑶ 帰国等保証金の納付(342条の6)
帰国等保証金額が定められたとき、その納付があったときに裁判所の帰国許可は効力を有する。
刑訴法94条第2項・第3項を準用する。
(出国許可の請求ができる者以外でも帰国等保証金を納付することができ、裁判所は許可にあたって住居制限など適当な条件を付けることができる)
帰国等保証金の額を決定するにあたって考慮すべき事情には、宣告された刑の重さ(刑の種類・刑期など)、被告人の性格・属性(過去の行動などから考えることになります)、生活の本拠、資産などが考えられます。また、外国人である場合には、その在留資格の内容などが考えられます。
このほか様々な事情を考慮して、裁判所により指定された期間内(342条の4第1項)に日本国に帰国し又は上陸することを保証するに足りる相当な金額でなければならないとされています(342条の5第2項)。
342条の5
1 裁判所は、第342条の2の許可をする場合には、帰国等保証金額を定めなければならない。ただし、保釈を許す決定を受けた被告人について、同条の許可をするときは、この限りではない。
2 帰国等保証金額は、宣告された判決に係る刑名及び刑期、当該判決を受けた者の性格、生活の本拠及び資産、その者が外国人である場合にあつてはその在留資格(入管法第2条の2第1項に規定する在留資格をいう。)の内容その他の事情を考慮して、その者が前条第1項の規定により指定される期間内に本邦に帰国し又は上陸することを保証するに足りる相当な金額でなければならない。
3 裁判所は、第342条の2の許可をする場合には、その許可を受ける者の渡航先を制限し、その他適当と認める条件を付することができる。
342条の6
1 第342条の2の許可は、帰国等保証金額が定められたときは、帰国等保証金の納付があつた時にその効力を生ずる。
2 第94条第2項及び第3項の規定は、帰国等保証金の納付について準用する。この場合に置いて、同条第2項中「保釈請求権者」とあるのは「第342条の3の請求をした者」と、同条第3項中「被告人」とあるのは「拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告を受けた者」と読み替えるものとする。
出国許可の取消し・帰国等保証金の没収(342条の7、342条の8)
⑴ 条文
刑事訴訟法342条の7、342条の8
⑵ 出国許可の取消し
(342条の7第1項)
裁判所は、出国の許可を受けた者が入管法第40条に規定する収容令書又は入管法第51条に規定する退去強制令書の発布を受けたとき、出国の許可を取消す決定をしなければならない。
(342条の7第2項)
裁判所は、次のいずれかに該当すると認める場合には、検察官の請求又は職権により、出国の許可を取消す決定ができる。
①出国の許可を受けた者が、正当な理由がなく、指定期間内に日本国に帰国せず又は上陸しないと疑うに足る正当な理由があるとき
②出国の許可を受けた者が、渡航先の制限その他裁判所の定めた条件に違反したとき
⑶ 帰国等保証金の没収
①342条の7第2項の規定により出国の許可を取消す場合(同条第3項)
②正当な理由なく、指定期間内に日本国に帰国せず又は上陸しなかったとき(同条第4項)
③被告人が許可を受けないで出国した(出国しようとした)ときに、保釈が取消された場合(342条の8第2項)
裁判所は、検察官の請求又は職権により、帰国等保証金の全部または一部を没収する決定ができる。
342条の7
1 裁判所は、第342条の2の許可を受けた者が、入管法第40条に規定する収容令書又は入管法第51条に規定する退去強制令書の発付を受けたときは、決定で、当該許可を取り消さなければならない。
2 裁判所は、次の各号のいずれかに該当すると認めるときは、検察官の請求により、又は職権で、決定で、第342条の2の許可を取り消すことができる。
① 第342条の2の許可を受けた者が、正当な理由がなく、指定期間内に本邦に帰国せず又は上陸しないと疑うに足る相当な理由があるとき。
② 第342条の2の許可を受けた者が渡航先の制限その他裁判所の定めた条件に違反したとき。
3 前項の規定により第432条の2の許可を取り消す場合には、裁判所は、決定で、帰国等保証金(第94条第1項の保証金が納付されている場合にあつては、当該保証金。次項において同じ。)の全部又は一部を没収することができる。
4 第342条の2の許可を受けた者が、正当な理由がなく、私的関内に本邦に帰国せず又は上陸しなかつたときは、裁判所は、検察官の請求により、又は職権で、決定で、帰国等保証金の全部または一部を没収することができる。
第342条の8
1 裁判所は、拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告を受けた被告人が第342条の2の許可を受けないで本邦から出国し若しくは出国しようとしたとき、同条の許可を受けた被告人について前条第2項の規定により当該許可が取り消されたとき、又は第342条の2の許可を受けた被告人が正当な理由がなく指定期間内に本邦に帰国せず若しくは上陸しなかつたときは、検察官の請求により、又は職権で、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める決定をすることができる。
①当該被告人について勾留状が発せられていない場合 勾留する決定
②当該被告人が保釈されている場合 保釈を取り消す決定
③当該被告人が勾留の執行停止をされている場合 勾留の執行停止を取り消す決定
2 前項(第2号に係る部分に限る。)の規定により保釈を取り消す場合には、裁判所は、決定で、保証金の全部または一部を没収することができる。
罰金の裁判の告知を受けた被告人に対する出国制限(345条の2~345条の4)
⑴ 条文
刑事訴訟法345条の2~345条の4
⑵ 対象者
罰金の裁判の告知を受けた被告人(執行猶予の言い渡しをしないものに限る)
(3) 出国制限の内容
裁判所は、当該裁判の確定後に罰金を完納することができないこととなるおそれがあると認めるとき、勾留状を発する場合を除いて、検察官の請求又は職権によって、裁判所の出国許可を受けなければ日本国から出国してはならないことを命ずる決定をする。
この被告人について、保釈許可又は勾留の執行停止をする場合について、罰金の裁判の確定後に罰金を完納することができないこととなるおそれがあると認めるときも、同様である。
同条の規定は、罰金の裁判の告知を受けた者が、出国することにより労役場留置の執行を免れることを防止する仕組みとして新設されました。
労役場留置とは、資力がないなどの理由で罰金を納めない場合にその人を労役場に留置して作業をさせるもので、留置される日数は裁判で決められます。
罰金の裁判の告知を受けた者について出国許可の請求をする際も、請求権者や検察官の意見を聴かなければならないことなど、拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告を受けた被告人と同様です。
第345条の2
1 裁判所は、罰金の裁判(その刑の執行猶予の言渡しをしないものに限る。以下同じ。)の告知を受けた被告人について、当該裁判の確定後に罰金を完納することができないこととなるおそれがあると認めるときは、勾留状を発する場合を除き、検察官の請求により、又は職権で、決定で、裁判所の許可を受けなければ本邦から出国してはならないことを命ずるものとする。
2 前項の被告人について、保釈を許し、又は勾留の執行停止をする場合において、罰金の裁判の確定後に罰金を完納することができないこととなるおそれがあると認めるときも、同項と同様とする。
施行日
上記改正については、公布日である「令和5年5月17日から2年以内」に施行される予定となっています。
終わりに
本改正は、「法制審議会-刑事法(逃亡防止関係)部会」(令和2年6月~・全14回)での議論を経て成立しましたが、弁護人として留意すべき点が多く含まれています。
とくに、保釈についての改正は、被告人となっている方や家族にとって重要な点となります。弁護人としても、正確に理解して、実際に弁護活動に活かすべきところです。
当事務所では、改正法の内容だけでなく、改正の経緯や、勾留・保釈の実務的な運用に関する問題の所在についても正しく理解し、依頼者を護るために、改正法下における最善の弁護活動を尽くしてまいります。
保釈請求に関しては、当事務所の代表弁護士である中原潤一が執筆した共著「事例から掴む 保釈請求を通す技術」 (第一法規、2021年)もご参照いただければ幸いです。
ご家族や大切な方が逮捕されてしまった方、逮捕・勾留からの釈放、保釈に関するご相談は、当事務所までご相談ください。
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