責任能力とは

コラム

2020.04.29

目次

1.日本の法律の規定
2.「心神喪失」とは
3.「心神耗弱」とは
4.犯罪を犯したのに無罪になったり減軽されるのはおかしい?
5.裁判で「心神喪失」「心神耗弱」と判断された後はどうなるの?

 

 

日本の法律の規定

刑法は、責任能力に関する規定を一つだけ置いています。

それが、刑法39条です。

39条1項は「心神喪失者の行為は、罰しない。」と規定し、39条2項は「心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。」と規定しています。

逆に言えば、法律上は、これしか書かれていません。

どのような場合に「心神喪失」と言えるか、どのような場合に「心神耗弱」と言えるのかという点については、最高裁判所の判例が示しています。

 

 

「心神喪失」とは

「心神喪失」とは、①精神の障害があって(統合失調症など)、②事物の理非善悪を弁識する能力がなく(して良いことと悪いことの区別をつけられない状態にある)、③またはその弁識に従って行動する能力がない状態(その区別に従って自分をコントロールすることができない状態にある)にあることを言います。②のことを事理弁識能力、③のことを行動制御能力と言ったりもします。②と③は、双方の能力が欠けていても、いずれか一方の能力が欠けていても「心神喪失」と判断されます。

平成30年版司法統計によれば、平成29年に行われた刑事裁判の総数が29万9319件で、そのうち無罪判決が130件とされています(0.04%)。この無罪判決のうち、「心神喪失」を理由に無罪となったのが6件であるとのことでした。

 

 

「心神耗弱」とは

「心神耗弱」とは、精神の障害がまだこの能力を欠如する程度には達していないが、その能力が著しく減退している状態を言います。上記②の事理弁式能力、③の行動制御能力の双方もしくはいずれか一方が、著しく減退している状態にあると判断された場合に「心神耗弱」という判断になります。

 

 

犯罪を犯したのに無罪になったり減軽されるのはおかしい?

このような制度があるのは日本だけではなく、諸外国でも同様の制度があります。もっとも、この制度に対して、犯罪を犯しているのは間違い無いのに、無罪になったり減軽されるのはおかしいという批判があります。

 

では、なぜこのような制度が設けられているのでしょうか。

それは、刑法は「責任主義」を採用しているからです。

刑罰は、ルールを違反したことに対するペナルティです。

刑罰を科すということは、ルール違反をしてはいけなかったのに違反したことに対する責任を問うことです。そうすると、刑罰を科すことができるのは、その人が自分の行為が悪い事だとわかっていて、自分の意思で思い止まることができたのに(本当はルールを守ることができたのに)、あえて自分の判断でルールを破ったと言える場合でなければならない、ということになります。このような場合には、自分であえて犯罪行為を選択して実行しており、その選択と行動を非難することができるので、刑罰を科すことができます。

これが、責任主義という考え方です。

 

したがって、精神の障害があって、自分の行為がやってもよいことか悪いことかがわからない場合や、わかっていても精神の障害によって思いとどまることができずに犯罪をしてしまった場合には、ルール違反をしたことに対するペナルティを科すことができない(それ自体を非難することができない)という事になります。こう言った考え方を前提にすれば、犯罪を犯したのに無罪になったり減軽されるのはおかしくないという事になります。

なお、日本では、古くは大宝律令から精神障害者に対する刑の減免規定が設けられており、江戸自体に定められた御定書百箇条にも刑を減免できる規定があったとされています。さらに、西洋では、精神障害者不処罰規定の歴史は、ローマ法の法格言に遡るとされています。

 

このように、人類は昔から、責任能力が欠ける、もしくは著しく減退している人に一般人と同様の刑罰を科すのはフェアではないという普遍的な価値観を有していたとも言うことができるでしょう。

 

 

裁判で「心神喪失」「心神耗弱」と判断された後はどうなるの?

精神障害のために違法な行為を行ったものの、裁判で「心神喪失」「心神耗弱」と判断されて、無罪になったり、執行猶予付きの判決が確定した場合には、刑事裁判の手続きは終了となります。

しかし、一定の犯罪に該当する場合には、「心神喪失等の状態で重大な違い行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」(いわゆる医療監察法)に基づいた手続きが開始される事になります。一定の犯罪とは、殺人・強盗・放火・わいせつ系の犯罪と、傷害罪になります。傷害罪については、この手続きの申立てをするかは検察官の裁量に委ねられていますが、それ以外の殺人・強盗・放火・わいせつ系の犯罪については、必ず申し立てる事になります。医療観察法に基づいて、審判が行われる事になります。この審判では、①入院決定、②通院決定、③医療を行わない旨の決定などが出される事になります。平成30年版司法統計によれば、平成29年に医療観察法に基づく審判の申立てがあったのは360件で、そのうち268件(74.4%)が入院決定となっているようです。

 

 

このページは、弁護士法人ルミナス法律事務所 代表弁護士 中原潤一 が執筆しました。

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