記事を執筆した弁護士

弁護士法人ルミナス法律事務所 東京事務所
弁護士 大橋 いく乃

早稲田大学大学院法務研究科卒業。最高裁判所司法研修所修了後、弁護士法人ルミナス法律事務所に加入し、多数の刑事事件・少年事件を担当。第一東京弁護士会刑事弁護委員会・裁判員裁判部会委員、刑事弁護フォーラム事務局、治療的司法研究会事務局等を務める。無罪判決、再度の執行猶予判決等を獲得。精神障害を有する方の刑事弁護に注力しており、医療・福祉の専門家と連携した弁護活動に積極的に取り組んでいる。

目次

1.はじめに
2.ぐ犯(虞犯:ぐはん)少年とは
ぐ犯事由の意義
ぐ犯事件の処分傾向

3.令和4年4月1日からぐ犯少年の対象が変わります

4.ぐ犯事件における付添人活動

 

 

はじめに

少年事件では、少年法の適用を受けるため、成人の刑事事件とは異なる部分が多くあります。

成人の刑事事件との大きな違いのひとつとして、犯罪には至っていないが、不良行為が見られる少年も虞犯少年として家庭裁判所の審判の対象になり得るという点が挙げられます。

今回は、虞犯少年とはどのような少年をいうのか、弁護士が入ることでどのような活動が可能かについて説明します。

 

 

虞犯(ぐはん)少年とは

ぐ犯(虞犯:ぐはん)少年とは、以下の各項目に該当し(これらの項目を「ぐ犯事由」と言ったりします)、かつ、その性格または環境に照らして、将来、罪を犯し、または刑罰法令に触れる行為をするおそれ(これらを「ぐ犯性」と言ったりします)のある少年のことをいいます(少年法3条1項3号)。

 

  • 保護者の正当な監督に服しない性癖のあること
  • 正当な理由なく家庭に寄り付かないこと
  • 犯罪性のある人もしくは不道徳な人と交際し、またはいかがわしい場所に出入りすること
  • 自己または他人の徳性を害する行為をする性癖のあること

 

つまり、何の犯罪行為もしていないにもかかわらず、その行動や性格によっては、家庭裁判所の審判の対象となる場合があるということです。これは、不良な行動を取っている少年を早期に発見して、適切な保護を加えることにより、少年の健全な育成を図るとともに、犯罪の発生を未然に防ぐことを目的としています。

 

 

ぐ犯事由の意義

保護者の正当な監督に服しない性癖があることとは、少年が、保護者の監督を必要とする行状があるにもかかわらず、法律上・社会通念上保護者の正当な監督に服しない行動傾向(常習性)があることをいいます。

たとえば、中学生の少年が親に反発ばかりして学校にも通わず、友人の家やゲームセンター等に入り浸っているケースなどが挙げられます。

 

正当な理由がなく家庭に寄り付かないこととは、少年の性格、年齢、家庭の状況等を総合して、少年が家庭に戻らないことに正当な理由がないことをいい、単に家庭に寄り付かないというだけでは足りません。

たとえば、高校生の少年が、保護者と喧嘩して家出し、一定期間帰ってこないような場合はあたり得ますが、家庭内でネグレクトを受けていたり、就学や就労のために家を出ているという場合には、この要件を満たさないと考えられます。

 

犯罪性のある人もしくは不道徳な人と交際し、またはいかがわしい場所に出入りすることとは、犯罪を犯すきっかけや誘惑となるような好ましくない交際をし、または教育上、子供を立ち入らせるべきでない場所に出入りすることをいいます。

たとえば、高校生の少年が、夜中に繁華街をうろつき、そこで出会った仲間とよく遊ぶようになったりするケースなどが挙げられます。

 

自己または他人の徳性を害する行為をする性癖のあることとは、社会的・倫理的通念に反する行為を自ら行い、または他人にさせるような行動傾向があることをいいます。

たとえば、中学生の少年が飲酒や喫煙などをしたり、またはその友人にさせたりしているケースが挙げられます。

 

上記いずれかのぐ犯事由に該当し、その性格または環境に照らして、将来、罪を犯し、または刑罰法令に触れる行為をするおそれ(ぐ犯性)がある場合には、ぐ犯少年として家庭裁判所の審判の対象となるとされています。「いずれか」とされていますが、必ずしもぐ犯事由の一つに該当するだけではなく、複数のぐ犯事由に該当することを理由に審判となるケースが多いとされています。ぐ犯少年として家庭裁判所に送致されるケースの多くは、もともと犯罪の嫌疑をかけられ捜査をされた結果、犯罪の嫌疑はないと判断されたものの、このままの生活では将来犯罪を犯すおそれがあるとして、ぐ犯少年として家庭裁判所に送致されます。

 

 

ぐ犯事件の処分傾向

ぐ犯少年は、実際には何の犯罪もしていないのですから、家庭裁判所の措置や処分は比較的軽くなるようにも思えます。しかし、そうではありません。

ぐ犯少年は、未だ犯罪には至っていないけれども、ぐ犯事由が存在することにより立件された少年である場合が多く、心身鑑別をする必要性や保護する必要性(要保護性)が高いと判断されやすい傾向にあります(少年審判でどのような要素が考慮されるかという点についてのより詳しい解説は、こちらの少年事件のページをご覧ください)。そのため、ほとんどのケースで観護措置に付されて少年鑑別所における身体拘束を受けたり、家庭裁判所における審判の結果、保護処分として少年院に送致されてしまうといった重い処分が下されるおそれも十分にあります。

 

 

令和4年4月1日からぐ犯少年の対象が変わります

令和4年4月1日から、改正少年法が施行されます。この少年法改正では、ぐ犯少年についても変更が加えられています(少年法改正の詳しい内容はこちらをご覧ください)。

すなわち、令和4年4月1日からは、18歳、19歳の少年はぐ犯少年から除外されました。したがって、18歳や19歳の少年が、何の犯罪も犯していないのに、ぐ犯事由やぐ犯性が認められるからと言って、ぐ犯少年として家庭裁判所に送致されることはなくなります。

 

 

ぐ犯事件における付添人活動

ぐ犯事件で立件された場合には、少年鑑別所で身体拘束をされたり、少年院に行かなければならなくなる事態を防ぐべく、早期から裁判所や調査官などと交渉する必要があります。

弁護士を付添人として付けることで、少年に寄り添いながら、少年の問題性を把握し、その解消へ働きかけたり、より効果的に環境調整を行うことができ、その状況を適切に、裁判所や調査官に伝えることができます。

 

ぐ犯事件では、少年に自己の問題性を自覚させ、改善へと働きかける活動、そして少年の周りの環境を整える活動が不可欠です。

 

お子さんがぐ犯少年として補導され、児童相談所に通報されてしまった、警察から呼び出しを受けているといった場合には、是非一度ご相談ください。

 

 

 

弁護士法人ルミナス法律事務所

弁護士 大橋いく乃

 

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