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弁護士法人ルミナス法律事務所 東京事務所
弁護士 大橋 いく乃

早稲田大学大学院法務研究科卒業。最高裁判所司法研修所修了後、弁護士法人ルミナス法律事務所に加入し、多数の刑事事件・少年事件を担当。第一東京弁護士会刑事弁護委員会・裁判員裁判部会委員、刑事弁護フォーラム事務局、治療的司法研究会事務局等を務める。無罪判決、再度の執行猶予判決等を獲得。精神障害を有する方の刑事弁護に注力しており、医療・福祉の専門家と連携した弁護活動に積極的に取り組んでいる。

 

はじめに

執行猶予期間経過後、さらに犯罪に至ってしまった場合、どのような刑がありうるでしょうか。

万引きや痴漢、盗撮など、1つの行為を繰り返してしまう方がいらっしゃいます。特にそういった方は、不起訴処分や略式請求(罰金刑)を複数回経験した後、公判請求され、執行猶予付きの判決となることがあります。このような場合、執行猶予中は気を付けて生活をし、再犯せずに済む方もいらっしゃるでしょう。しかし、執行猶予期間経過後、再犯してしまったら…

ここでは、執行猶予期間経過後の量刑傾向と弁護活動について、ご説明します。

 

 

執行猶予判決とは

詳細は他の記事に譲りますが、執行猶予とは、有罪判決が下された場合、刑の執行を一定期間行わず、社会内での立ち直りの機会を与える制度です。

執行猶予期間中に、再度事件を起こしてしまった場合、原則として執行猶予が取り消され、当該事件で言い渡された刑期に執行猶予付き判決の際に言い渡された刑期を合わせた分、刑務所に行くこととなります。

※この場合、ここでは詳述しませんが、例外的な制度として認められている「再度の執行猶予」を求めていくという方針も、事案によってはあり得ますので、諦めず、ご相談ください。

 

参考記事:刑事事件のご相談|執行猶予にしてほしい

 

 

執行猶予期間経過後の再犯の場合

それでは、執行猶予期間については、無事に過ごすことができたけれども、その後再犯してしまった場合の量刑傾向はどのようなものでしょうか。

法律上、執行猶予期間経過後は、刑の言い渡しは効力を失います。そのため、仮に執行猶予期間経過後の再犯について、起訴(公判請求)された場合、再び執行猶予を付けることに法律上の制限はありません。

しかし、実務上、執行猶予期間経過後の再犯の場合も、非常に厳しく扱われます。

もちろん、たとえば執行猶予期間満了から10年以上経過している場合などは、少し緩やかに判断されることもありえますが、執行猶予期間満了から5年以内に再犯してしまったような場合には、実刑判決が下される可能性が高いです。

執行猶予期間を経過したからといって、もう大丈夫だろうと考えてしまうのは誤りです。

特に、万引きや痴漢、盗撮など、行為などに依存傾向にある方から、執行猶予期間は経過しているけれども、再犯してしまったというご相談を受けることがよくあります。

 

 

起訴させないための弁護活動

上述の通り、起訴されてしまった場合、量刑傾向としては非常に厳しいものとなります。

そこで、まずは起訴されないこと、すなわち、不起訴処分ないし略式請求(罰金)で落とすことを目標に活動することとなります。

検察官は、特段の事情が何もなければ、当然起訴します。

原則起訴と考える検察官に対し、本件には例外的な事情があること(本人の意思のみではコントロールできない事情があったこと、その点に対する支援体制ができていること)を伝え、説得する必要があります。

身体拘束を受けている場合、捜査段階には期間制限(勾留請求から20日間で処分を判断する)がかかることから、その間に検察官をある程度説得し、検察官の終局処分の選択肢に不起訴処分や略式請求(罰金)を入れさせなければなりません。

そのため、このような事案の場合には、少しでも早く、弁護人を選任することが肝要です。

 

 

再び執行猶予判決を獲得するための弁護活動

とはいえ、起訴されてしまった場合にも、諦める必要はありません。

再び執行猶予判決を獲得すべく、活動していくこととなります。

再びの執行猶予判決を得るためには、以下のような事情を主張立証していくことが必要です。

 

・犯罪を繰り返してしまった原因に、ご本人のみを責めることができない事情があること

・再犯防止のため、繰り返してしまった原因に対し、具体的に対策が施されていること

・繰り返してしまった原因について、理解し、支援する者が存在し、これまでとは異なる支援体制が新たに築かれたこと

など

 

行為を繰り返してしまう原因を究明し、それに対して具体的かつ効果的な対処をすること、医療や福祉等の力を借りながら、二度と同じ行為を繰り返さないための体制を整えることによって、裁判官に、もう一度、立ち直りの機会を与える必要があると判断させる必要があります。

 

 

おわりに

万引きや痴漢、盗撮などを繰り返してしまう方は、当該行為に依存してしまっているのかもしれません。だめだとわかっているのに、行為に及んでしまっている、「依存症」なのかもしれません。そうであるとすれば、専門の医療機関において治療を受けるなど、もう二度と繰り返さないために取ることのできる対策があります。

 

執行猶予期間中は特に注意し、生活をしていたけれど、猶予期間後、ほんの少しだけ気持ちが緩んだところで再犯をしてしまったという方、猶予期間、再犯なく頑張って生活をしていた姿を見守り、もう大丈夫だろうと安心していたら、急に警察からまたご本人が逮捕されたという連絡を受けたご家族、是非一度ご相談ください。

 

 

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弁護士 大橋いく乃