記事を執筆した弁護士

弁護士法人ルミナス法律事務所 埼玉事務所 所長
弁護士 田中 翔

慶應義塾大学法科大学院卒業。最高裁判所司法研修所修了後、公設事務所での勤務を経て、現在、弁護士法人ルミナス法律事務所埼玉事務所所長。日弁連刑事弁護センター幹事、埼玉弁護士会裁判員制度委員会委員、慶應義塾大学助教等を務めるほか、全国で弁護士向けの裁判員裁判研修の講師も多数務めている。冤罪弁護に注力し、無罪判決2件獲得。もし世界中が敵になっても、被疑者・被告人とされてしまった依頼者の味方として最後まで全力を尽くします。

 

札幌市で、傷害容疑で逮捕された男性が、いったん勾留決定がされた後に裁判官により勾留が取り消されたというニュースがありました。

 

刑事訴訟法では、警察官は逮捕後48時間以内に事件を検察官に送らなければならないとされており、事件の送致を受けた検察官は、裁判所に対し24時間以内に勾留請求をするか釈放するかしなければならないとされています。

勾留請求を受けた裁判官により勾留決定がされたときは、10日間の勾留がされることになります。

 

勾留決定がされた後に釈放を求めるための手段として、

  • 勾留決定に対する準抗告申立て
  • 勾留取消請求

があります。

準抗告は、勾留決定が誤っているから取り消すよう求めるものであり、1回しか申立てはできないこととされています。準抗告の判断は、勾留決定をした裁判官とは異なる裁判官3名により行われます。

勾留取消請求は、勾留決定そのものが誤っていたかではなく、勾留決定後の事情からすれば現時点では勾留の必要がないとして勾留の取り消しを求めるものです。準抗告とは異なり、こちらは回数の制限はありません。

 

身体拘束から解放を求めるにあたって、弁護人は、これらの手段があることを念頭において活動することになります。

早期の釈放を求める場合には、まずは、家族などに身柄引受書を作成してもらうなどして、証拠隠滅や逃亡が現実的には考えられないことを示す資料を用意し、検察官に勾留請求をしないよう働きかけます。それでも検察官が勾留請求をする場合、次に裁判官に対し、勾留請求を認めないよう意見書を提出することになります。

次に裁判官に対し、勾留請求を認めないよう意見書を提出することになります。

しかし、それでも勾留決定がされてしまうことも少なくありません。

勾留決定がされてしまったときは、裁判所に対し、勾留決定が誤っていることを理由にして準抗告申立てを行うことになります。

準抗告申立てでは、証拠隠滅や逃亡が考えられないことを示す資料をできるだけ多く用意し、証拠隠滅や逃亡が現実的には考えられないことを的確に論証する必要があります。

それでも準抗告申立てが認められなかった場合、勾留取消請求を行うことを検討することになります。

 

もっとも、勾留取消請求は、実際上認められることはかなり少ないです。

令和3年度の司法統計によると、地裁・簡裁で勾留状が発付された数は9万262件ですが、勾留取消しがされたのはわずか146件とされています。

勾留取消しが認められるのは、統計上もきわめて珍しいものといえます。

また、勾留取消請求がされた場合、判断するにあたって裁判官は検察官に意見を聞くこととされており、検察官は通常勾留取消しに強く反対するので、裁判官も勾留取消しをすることに消極的になることも多いと考えられます。

 

しかし、身体拘束する必要がないと考えられる場合には、勾留取消請求をすることをためらうべきではありません。

とくに、勾留決定後に示談が成立した場合などには、勾留取消しが認められる場合があります。

また、勾留取消請求自体は認められなくとも、勾留取消請求がされたことをきっかけとして、(裁判官が検察官に釈放をうながすなどして)検察官が勾留満期日前に釈放することもあります。

 

身体拘束が続くことは、職を失う可能性が高まったり、精神的にも身体的にも追い込まれた状態になるなど、非常に不利益が大きいものです。

また、早期に釈放されることにより、示談金を用意することが可能になったり、再犯防止に向けた取り組みを自ら行うこともできるので、最終的な処分を有利にする点からも大きな意味があります。

現在の刑事司法では、安易に身体拘束が行われており、非常に大きな問題といえます。

安易に身体拘束が認められることは許されてはなりません。身体拘束からの解放に向けて、弁護人は、取り得る手段を尽くすことが求められます。

 

当事務所では、不起訴処分に向けた活動だけでなく、できるだけ早期に身体拘束から解放されるように弁護活動を行っています。

 

 

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弁護士 田中翔