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弁護士法人ルミナス法律事務所 東京事務所
弁護士 大橋 いく乃

早稲田大学大学院法務研究科卒業。最高裁判所司法研修所修了後、弁護士法人ルミナス法律事務所に加入し、多数の刑事事件・少年事件を担当。第一東京弁護士会刑事弁護委員会・裁判員裁判部会委員、刑事弁護フォーラム事務局、治療的司法研究会事務局等を務める。無罪判決、再度の執行猶予判決等を獲得。精神障害を有する方の刑事弁護に注力しており、医療・福祉の専門家と連携した弁護活動に積極的に取り組んでいる。

目次

大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律が成立しました
改正の背景
若年層の大麻乱用
医薬品の施用
医療用大麻の解禁
大麻使用罪の新設
法定刑
条文
大麻草の栽培に関する規制の見直し
施行日
おわりに

 

 

大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律が成立しました

令和5年12月6日に、大麻取締法及び麻薬及び向精神薬取締法の一部を改正する法律(令和5年法律第84号)が成立しました。

 

本改正では、①大麻取締法の対象となっていた大麻草は「麻薬及び向精神薬取締法」によって規制されることとなり、②大麻取締法は「大麻草の栽培の規制に関する法律」へと名称が変更されます。

 

その結果、改正により、医療用大麻の解禁・大麻使用罪の新設・大麻草の栽培免許制が定められており、以下ではそれぞれについて解説いたします。

 

 

改正の背景

若年層の大麻乱用

近年、より強い違法薬物を乱用する入口となる「ゲートウェイ・ドラッグ」として、大麻を若者が乱用するケースが相次ぎ、社会問題となっています。

武見厚生労働大臣は、大麻に使用罪がなかったことが大麻を使用しても良いという誤ったメッセージとなっていた側面があるとしています。

 

麻薬や向精神薬と異なり、日本では従来、大麻は使用について処罰されてきませんでした。

その理由は、

大麻草の栽培農家が、大麻草を刈る作業を行う際に大気中に大麻の成分が飛散し、それを吸引して「麻酔い」という症状を呈する場合を考慮したため。

日本では古来より大麻草が衣服の繊維など生活に用いられてきた歴史があり、こうして衣服・食品から大麻成分が検出されたとしても処罰する必要のない人を処罰してしまう。

などとされています。

しかし、現在では制定当時の上記のような理由は当てはまらず、施用について処罰しない合理的な理由は見出されないと考えられるようになりました。

 

そこで、他の規制薬物と同様、大麻にも施用罪を適用することで、乱用の歯止めとするのが改正の狙いの一つです。

 

 

医薬品の施用

海外では、難治性のてんかん症候群の治療に、大麻を由来とする成分(カンナビジオール、CBD)が活用されており、欧米ではこの成分を使用した抗てんかん薬が承認されています。

 

しかし、日本では現行法上大麻から製造された医薬品の使用は認められていないため、仮に薬事法による承認を受けても、患者に使用することはできません。

 

そこで、大麻から製造された医薬品について、医療関係者・患者から医療解禁の要望があり、今回の改正に至りました。

 

 

医療用大麻の解禁

本改正により、大麻から製造された医薬品の使用禁止規定(大麻取締法)が削除されます。

そのうえで、大麻を麻薬及び向精神薬取締法上の「麻薬」と位置付け、麻薬取締法の規制に従って、医療者が大麻から製造された医薬品を施用すること・施用のための患者へ交付することが可能になります。

 

改正前

【大麻取締法】 …以下の規定は削除されます。

第4条 何人も次に掲げる行為をしてはならない。

一 (省略)

二 大麻から製造された医薬品を施用し、又は施用のため交付すること。

三 大麻から製造された医薬品の施用を受けること。(以下省略)

 

改正後

【大麻草の栽培の規制に関する法律】

第2条

この法律で「大麻草」とは、カンナビス・サティバ・リンネをいう。

第2項 この法律で「大麻」とは、大麻草(その種子及び成熟した茎を除く。)及びその製品(大麻草としての形状を有しないものを除く。)をいう。

(以下省略)

 

【麻薬及び向精神薬取締法】

第2条

第1項 この法律において次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

一 麻薬 別表第一に掲げる物及び大麻をいう

一の二 大麻 大麻草の栽培の規制に関する法律(昭和23年法律第124号)第2条第2項に規定する大麻をいう。

(中略)

十八 麻薬施用者 都道府県知事の免許を受けて、疾病の治療の目的で、業務上麻薬を施用し、若しくは施用のため交付し、又は麻薬を記載した処方箋を交付する者をいう。

 

第27条

第1項 麻薬施用者でなければ、麻薬を施用し、若しくは施用のため交付し、又は麻薬を記載した処方箋を交付してはならない。但し、左に掲げる場合は、この限りでない。

一 麻薬研究者が、研究のため施用する場合

二 麻薬施用者から施用のため麻薬の交付を受けた者が、その麻薬を施用する場合

三 麻薬小売業者から麻薬処方せんにより調剤された麻薬を譲り受けた者が、その麻薬を施用する場合

2 (省略)

3 麻薬施用者は、疾病の治療以外の目的で、麻薬を施用し、若しくは施用のため交付し、又は麻薬を記載した処方せんを交付してはならない。ただし、精神保健指定医が、第五十八条の六第一項の規定による診察を行うため、N―アリルノルモルヒネ、その塩類及びこれらを含有する麻薬その他政令で定める麻薬を施用するときは、この限りでない。

 

このように、改正後は、原則として、大麻は「麻薬」と位置付けられ使用することは禁止されますが、麻薬施用者の免許を取得すれば使用することができます。

 

 

大麻使用罪の新設

医療用大麻を解禁すると同時に、大麻の使用が新たに処罰対象となり、大麻施用罪が制定されました。

ここで、「施用」とは医薬品である麻薬を身体に投与・服用することを言います。麻薬及び向精神薬取締法第12条1項で、「麻薬…は、何人も…施用し…てはならない」とされ、同条第4項では「何人も…施用を受けてはならない」としています。

この規定に違反して不正に大麻を使用した場合に、同法第64条の3によって大麻施用罪が成立することになります。

 

 

法定刑

大麻が麻薬及び向精神薬取締法上の「麻薬」に追加される結果、今まで禁止されていた不正な所持・譲渡・譲受・輸出入・栽培等に加え、不正な使用についても、麻薬及び向精神薬取締法で禁止されることになります。

また、以下の表のように、法定刑は改正前と比較してより重くなります。

 

  改正前(大麻取締法違反) 改正後(麻薬及び向精神薬取締法違反)
施用(使用) 規定なし 7年以下の懲役
所持・譲受・譲渡 5年以下の懲役 7年以下の懲役
営利目的所持・譲受・譲渡 7年以下の懲役又は情状により7年以下の懲役及び200万円以下の罰金 1年以上10年以下の懲役、又は情状により1年以上10年以下の懲役及び300万円以下の罰金
輸出入・製造・栽培 10年以下の懲役 1年以上10年以下の懲役
営利目的の輸出入・製造・栽培 10年以下の懲役又は情状により10年以下の懲役及び300万円以下の罰金 1年以上の有期懲役、又は情状により1年以上の有期懲役及び500万円以下の罰金

 

 

条文

大麻施用罪及び不正な所持・譲渡・譲受・輸出入・栽培の罪について、改正後の条文は以下の通りです。

 

【麻薬及び向精神薬取締法】

第二十七条 麻薬施用者でなければ、麻薬を施用し、若しくは施用のため交付し、又は麻薬を記載した処方箋を交付してはならない。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。

一・二・三(略)

 

第六十六条の二 第二十七条第一項又は第三項から第五項までの規定に違反した者は、七年以下の懲役に処する。

2 営利の目的で前項の違反行為をしたときは、当該違反行為をした者は、一年以上十年以下の懲役に処し、又は情状により一年以上十年以下の懲役及び三百万円以下の罰金に処する。

3 前二項の未遂罪は、罰する。

 

第六十五条 次の各号のいずれかに該当する者は、一年以上十年以下の懲役に処する。役に処する。

一 ジアセチルモルヒネ等以外の麻薬を、みだりに、本邦若しくは外国に輸入し、本邦若しくは外国から輸出し、又は製造した者(第六十九条第一号から第三号までに規定する違反行為をした者を除く。)

二 麻薬原料植物をみだりに栽培した者

営利の目的で前項の罪を犯したときは、当該罪を犯した者は、一年以上の有期懲役に処し、又は情状により一年以上の有期懲役及び五百万円以下の罰金に処する。

3 前二項の未遂罪は、罰する。

 

第六十六条 ジアセチルモルヒネ等以外の麻薬を、みだりに、製剤し、小分けし、譲り渡し、譲り受け、又は所持した者(第六十九条第四号若しくは第五号又は第七十条第五号に規定する違反行為をした者を除く。)は、七年以下の懲役に処する。

営利の目的で前項の罪を犯したときは、当該罪を犯した者は、一年以上十年以下の懲役に処し、又は情状により一年以上十年以下の懲役及び三百万円以下の罰金に処する。

3 前二項の未遂罪は、罰する。

 

 

大麻草の栽培に関する規制の見直し

これまで、大麻栽培は、「大麻草採取栽培者」として都道府県知事より免許を受けた者に限定されており、「大麻草栽培者」は繊維・種子を採取する目的で栽培するという、非常に限定的な目的のもとで認められてきました。

 

本改正により、免許制度による適正な管理の下ではありますが、繊維・種子を採取する目的に加えて、大麻の産業利用を念頭に置いた目的(大麻草を製品の原材料として栽培する場合)・大麻由来成分を含む医薬品の研究開発が行われる可能性を念頭に置いた目的(医薬品の原料として栽培する場合)についても、大麻草栽培が認められることになりました。

 

また、大麻草の研究栽培を行う場合、これまでは大麻研究者免許(都道府県知事によるもの)が必要でしたが、改正後は大麻草研究栽培者免許(厚生労働大臣によるもの)が必要になります。

 

 

施行日

施行日は、いずれの改正内容についても、公布の日から起算して一年を超えない範囲内で政令で定める日とされています。

 

ただし、大麻草の栽培に関する規制の見直しのうち、研究栽培を行う場合の規制以外の部分については、公布の日から2年を超えない範囲内で政令で定める日とされています。

 

 

おわりに

本改正により、大麻使用罪が新たに成立しました。

さらに、大麻所持その他について、法定刑の引き上げもなされています。

量刑を決めるうえで、この点がどの程度考慮されるのかも、裁判例など実務の動向を注視していかねばなりません。

 

薬物事犯は、その物質の依存性から、使用してはいけないと分かってはいるけれどもやめられない、依存症の状態となってしまっている方が一定数いらっしゃいます。大麻も例外ではありません。

当事務所では、ご希望がある場合には、専門の医療機関に繋ぐなど、薬物使用を繰り返さないための支援も行っております。

 

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