記事を執筆した弁護士

弁護士法人ルミナス法律事務所 横浜事務所
弁護士 南里 俊毅

上智大学法科大学院入学後、司法試験予備試験・司法試験合格。最高裁判所司法研修所修了後に、弁護士法人ルミナス法律事務所横浜事務所に加入し、多数の刑事事件・少年事件を担当。神奈川県弁護士会刑事センター運営委員会・裁判員裁判部会委員、刑事弁護フォーラム事務局等を務める。逮捕・勾留からの早期釈放、示談交渉、冤罪弁護、公判弁護活動、裁判員裁判等、あらゆる刑事事件・少年事件に積極的に取り組んでいる。

目次

1.検察審査会制度とは
2.審査手続
審査対象
審査の開始
第一段階の審査
第二段階の審査
3.検察審査員・補充員について
検察審査員の仕事
補充員の仕事
選任・任期
4.議決及び議決後の状況
5.審査申立てがされたら
6.さいごに

 

 

検察審査会制度とは

検察審査会制度とは、選挙人名簿に基づき、くじで選定された11人の検察審査員が、検察官のした不起訴処分が正しかったのかどうかを審査する制度をいいます。

公訴を提起するかどうか(裁判にするかどうか)は原則として検察官の判断に委ねられています(刑事訴訟法247条)が、被害者等において、検察官の不起訴処分に不服がある場合の不服申立制度として、このような救済手段が置かれています。

 

本制度は、検察官の公訴権の実行に関し民意を反映させてその適正を図ることを制度趣旨としており(検察審査会法1条1項)、選挙権を有する人であれば、(欠格事由や就職禁止事由等に該当しない限り)誰でも検察審査員に選ばれる可能性があります。

 

 

審査手続

審査対象

刑事事件のうち、検察官が不起訴処分にした事件(ただし、内乱罪と独占禁止法違反の罪は除く)

 

審査の開始

その事件の被害者や遺族、告訴・告発をした人等の審査申立てに基づき、審査が開始されます(検察審査会法2条2項)。

また、申立てがなくても、報道等をきっかけとして審査が開始することもあります(これを「職権審査」といいます)。

 

第一段階の審査

審査は検察審査員全員が出席する非公開の検察審査会議で行われます。

検察庁から取り寄せた捜査記録から、検察官がどのように判断をして不起訴処分をしたかについて調べ、申立人が提出した資料などを踏まえて、その不起訴処分が正しかったのかどうかを検討します。

 

検察審査会が必要と判断したときは、検察官から意見を聴取したり、法律上の問題点などについて弁護士(審査補助員)の助言を求めたりすることもできます(検察審査会法39条の2)。

 

審査を終えた場合、「起訴相当」「不起訴不当」「不起訴相当」のいずれかの議決がされます(検察審査会法39条の5)。

 

  • 起訴相当

起訴相当は、検察審査員11人中8人以上が「検察官の不起訴処分は間違っており、起訴するべきである。」と判断した場合の議決です。

 

起訴相当の議決がされると、検察官は再度事件を捜査し、改めて起訴・不起訴の判断をします。検察官が改めて不起訴処分をした場合や、法定の期間内 (原則3か月。更に3か月まで延長可能) に処分をしなかった場合には、再度の審査(第二段階の審査) を行います。

 

  • 不起訴不当

不起訴不当は、検察審査員の過半数(11人中6人以上)が「検察官の不起訴処分は不当であり、更に詳しく捜査した上で起訴・不起訴の処分をすべきである。」と判断した場合の議決です。

 

不起訴不当の議決がされると、検察官は再度事件を捜査し、改めて起訴・不起訴の判断をします。

 

  • 不起訴相当

不起訴相当は、検察審査員の過半数(11人中6人以上)が「検察官の不起訴処分は相当である。」と判断した場合の議決です。

 

第二段階の審査

第二段階の審査では、さらに適正かつ充実した審査を行うため、必ず審査補助員を委嘱することとされています。

審査の結果、「起訴すべき旨の議決(起訴議決) 」又は「起訴議決に至らなかった旨の議決」のいずれかの議決をします。

 

起訴議決をする場合には、あらかじめ検察官に対し意見を述べる機会を与えなければなりません。

 

  • 起訴議決

起訴議決は、検察審査員11人中8人以上が「検察官の不起訴処分は正しくなく、起訴して裁判にかけるべきである。」と判断した場合の議決です。

起訴議決がされると、検察審査会の所在地を管轄する地方裁判所が、検察官の職務を行う弁護士を指定し、指定された弁護士が検察官に代わって起訴し(強制起訴)、訴訟活動を行うこととなります。

 

 

検察審査員・補充員について

検察審査員の仕事

検察審査員に選任されると、主に2つの仕事をすることとなります。

1つは、上述した、不起訴処分の相当性を審査すること。もう1つは、検察事務について改善すべき点があれば、検事正に対して、改善について建議・勧告をすることです。

 

補充員の仕事

検察審査員以外にも、補充員と呼ばれる方々もいます。検察審査員と同数の補充員が選ばれ、補充員は、検察審査員と同様に検察審査会議に出席し、検察審査員が病気等で会議に出席できなくなったり、やむを得ず辞任をした場合などに、その人に代わって検察審査員の仕事をします。

 

選任・任期

検察審査員・補充員は、選挙人名簿に基づき、くじによって選ばれます。

原則として辞退することはできませんが、例えば学生であったり、「やむを得ない事由」があり職務を行うことができない等の事情が認められる場合には、辞退することができます(検察審査会法8条)。

任期は6カ月です。

 

 

議決及び議決後の状況

検察審査会法施行後の昭和24年から令和4年までの間、検察審査会では18万7,063人のうち、1万9,256人(10.3%)が起訴相当又は不起訴不当の議決がされ、このうち1,831人が検察官によって起訴されました。

昭和24年から令和4年までの間、指定弁護士による公訴提起を含みますが、検察審査会の議決後起訴された人員の第一審裁判では、1,527人が有罪(自由刑544人、罰金刑983人)、106人が無罪等となっています。

 

また、平成21年から令和4年までに再審査(第二段階の審査)が開始されたのは、60人であり、起訴議決に至ったものは延べ15人、起訴議決に至らなかった旨の議決は延べ18人でした。

平成21年から令和4年までの間、検察審査会の起訴議決を経て強制起訴されて裁判が確定した事件の人員は、11人(有罪2人、無罪等9人)となっています。

 

なお、検察審査会の事件の受理人員については、令和4年における受理人員のうち、刑法犯(改正前の刑法211条2項に規定する自動車運転過失致死傷を含む。)は3,554人でした。犯罪の名前別に見ると、業務上横領が1,349人と最も多く、次いで、職権濫用(551人)、文書偽造(345人)、傷害(284人)の順でした。

 

 

審査申立てがされたら

いったん不起訴処分となったにもかかわらず、その事件について後々起訴されるとすれば、公判に向けた準備が新たに必要になるなど、大きな不利益を被ることになります。

 

しかし、審査の申立てがされても、被疑者には審査がされている旨の通知はされません

たとえば検察官が再度の捜査を行うため被疑者を取調べに呼ぶなどすれば、事実上審査の事実を知ることができますが、被疑者に対する通知が制度上保障されているわけではありません。

 

そのため、事件の内容にもよりますが、方針として選択可能であれば、まずは被害者の方に被害弁償を行い、真摯に謝罪の意思を伝えるなど、審査の申立てがされないようにすることが重要です。

 

申立てがされ審査が開始された場合には、不起訴処分を求める意見書等を作成し、検察官を通じて審査会に提出するなどの活動を行っていくことがあり得ます(もっとも、被疑者が口頭や書面で意見を陳述することが権利として認められているわけではなく、事実上書面の提出ができるにすぎません)。

 

 

さいごに

私たち弁護人としては、検察審査会への審査申立てがされる可能性等も考慮して、方針を選択する必要があります。もっとも、検察審査会に対する審査申立ては、方針選択上避けがたい場合もあります。実際に申立てがされてしまった場合であっても、適切な判断資料を提供したり、起訴議決がされた後の手続をも見据えたうえで対応していく必要があります。

引き続き、検察審査会制度を前提として、最善の弁護活動を尽くしてまいります。