記事を執筆した弁護士

弁護士法人ルミナス 代表
弁護士 中原 潤一

弁護士法人ルミナス代表弁護士。日弁連刑事弁護センター幹事、神奈川県弁護士会刑事弁護センター委員、刑事弁護実務専門誌編集委員等を務め、全国で弁護士向けの裁判員裁判研修の講師を多数務めている。冤罪弁護に精通し、5件の無罪判決を獲得。少年事件で非行事実なしの決定等の実績を有する。逮捕・勾留されているご依頼者を釈放する活動、冤罪事件の捜査弁護活動及び公判弁護活動、裁判員裁判等に注力している。

目次

1.司法面接とは何か
司法面接の2つの重要な目的
司法面接の特徴と方法
2.日本の司法面接
代表者聴取(協同面接)
代表者聴取の実施件数
3.司法面接に関する刑訴法改正
改正の概要
法改正の内容
施行日
4.改正を経ても残る課題
「代表者聴取」自体に存する問題
証人審問権との関係で生じる問題
5.終わりに

 

 

「司法面接」「共同面接」「代表者聴取」

これらの言葉を聞いたことがある・知っているという方は、あまり多くないと思います。

 

ですが、事件捜査において(特に性犯罪事件や児童虐待事件など)、子どもから供述を聞き取る際に「司法面接」が実施されることがあります。

また、「司法面接」によって得られた被害者の供述は、裁判で重要な証拠となり得ます。

 

2023年6月の刑事訴訟法改正によって、この「司法面接」に関連する大きな法改正がありました。

 

このコラムでは、日本における司法面接の現状について解説し、本改正以降も残されている課題についてお伝えいたします。

 

 

司法面接とは何か

司法面接は、法的な判断のために使用することのできる精度が高いと思われる記憶を、面接を受ける者(子どもなど)の心理的負担に配慮しつつ得るための面接法です。

もともとはアメリカ・イギリスで発達した面接法で、現在では国際的に重要性が認識され、欧米で広く導入されるに至っています。

司法面接は事実調査のためのものなので、供述者の心理的負担に配慮しながら、「何が起きたか」(=事実)をできるだけたくさん聴取することを目指します。

 

 

司法面接の2つの重要な目的

◇子どもの供述の信用性確保

司法面接の主な対象者は、犯罪の被害者・目撃者となった子どもです。

一般に、児童は認知・記憶・表現の能力が未発達で誘導・示唆・暗示の影響を受けやすく、時間の経過による記憶の減退を受けやすいとされています。そのため、児童から信用性のある供述(つまり、誘導・示唆・暗示の影響を受けていない記憶に基づく供述)を確保するためには、成人の場合と同様の手法(いわゆる「事情聴取」)では不十分と言えます。

そこで、聴取過程で誘導・暗示を与えないような特別な方法が、子どもから供述を聴き取る際には必要になります。ここで司法面接が用いられるのです。

 

このように、司法面接の目的の一つには、子どもの記憶・供述を汚染しないようにして供述を確保することがあります。

 

◇子どもの負担の軽減

また、司法面接は、子どもに精神的な二次被害が生じることを防止する目的もあります。

 

事件の被害者や目撃者に対して、警察・検察などの捜査機関は繰り返し聴取を行って調書を作成します。児童虐待事件の場合は、児童相談所も聴き取り調査を行うことになります。

そこで、被害者や目撃者は被害当時を思い出して供述することになりますが、このように犯罪(被害)を思い出すこと自体が、被害者等の精神的負担となると考えられています。

聴取を繰り返し行うことは精神的負担を繰り返し生じさせることになり得ます。その結果子どもに二次被害が生じ負担を負わせることのないような仕組みとして、司法面接が用いられています。

 

さらに、子供に対し、聴取が繰り返されることによって新たな誘導・示唆・暗示が生じることも防ぐことができます。

 

◇これら二つの目的を達成するため、司法面接は、心理学的知見に基づき、一定のプロトコルとして緩やかに構造化されています。

 

 

司法面接の特徴と方法

以上で述べた目的を踏まえ、通常の取調べ(事情聴取)とは異なり、出来るだけ早期に・供述者の自由報告を重視して・原則1回だけ行われ、同時に録音・録画されるのが特徴です。

 

子どもからその記憶通りの情報を聴き取り記録するために、聴取者からの質問はできるだけ控え、子どもから自発的に自由に話してもらう、つまり自由報告が重要です。質問の内容や方法によっては、子どもは暗示や誘導、示唆を受けて正確でない情報を供述してしまいやすいからです。

そこで、司法面接では、自由報告を引き出しやすいオープン質問を用います。

はい/いいえで答える形式・選択択を与える形式の質問はクローズド質問と言い、子どもの記憶を汚染し暗示や示唆を与えやすく、子どもが自由な発想で報告することを難しくしてしまいます。

 

また、子どもにいきなり「自由に話してください」と言って事件の話を聴き取ることは困難なので、司法面接は緩い構造化がされています。

 

司法面接の流れ:
➀導入→②本題→③ブレイク→➃質問→➄終結

 

➀導入では、面接の間の決まり事(グラウンドルール)を共有するほか、子どもとの話しやすい信頼関係(これをラポールと言います)を形成するために子どもの好きなものを尋ねたり、その後の聞き取りに備えて質問に答える練習をします。その後の②では事件の話を聴き、③➃では別室に控えている連携チーム(警察、検察、児童相談所関係者など)と話し合って更に子どもから話を聴き取ります。➄では話してくれたことを子どもに感謝して、他に話したいこと、質問がないか等確認し、面接を終了します。

 

そして、捜査機関や児童相談所などがばらばらにそれぞれ聴取を行うのではなく、他機関で連携して行うことも特徴です。聴き取り回数を減らすことができ、子どもの負担軽減・供述の信頼性確保に繋がることはもちろん、面接結果を各機関で共有して継続した子どもへのサポート(場合によっては家族へのサポート)につなげることができるからです。

 

 

日本の司法面接

代表者聴取(協同面接)

2015年から、「代表者聴取」という名前で、司法面接の手法を活用して、子どもから聴取を行う取り組みが実施されています。

これは、児童相談所・警察・検察といった関係機関で事前協議を行ったうえで、関係機関の代表者が聴取を行います。

 

ここで、「関係機関の代表者」は個々の事案ごとに事前協議の中で決められますが、実際は概ね検察官になっていることが多いようです。そのため、代表者聴取が行われる場所も検察庁になることが多いようです。

代表者聴取の結果得られた子どもの供述が、将来裁判の中で証拠として使用される可能性があることから、公判における立証上の観点を考慮しやすい立場にある検察官が代表者として聴取主体になるのではないか と考えられています。ただ、それ故に、検察官からの意識的・無意識的な誘導・示唆・暗示などが排除されないのではないかという懸念があります。

 

※なお、現在、代表者聴取は、未成年者(18歳未満の児童)・性犯罪被害に遭った成人を含む精神障がい者の方に対して実施されています。司法面接は、主な対象者を子どもとしていますが、子どものための聴取法というわけではありません。心理学的な観点から被誘導性の低い面接法であり、事実調査のためであればどのような方に対しても応用可能性のある面接法です 。

 

 

代表者聴取の実施件数

以下は、代表者聴取の取り組みが開始されて以降の実施件数の推移です。

令和2年度の実施総数は2,124件でした。また、いずれの年度でも、主に小学生~中学生程度の年齢の子どもに対して活用されています。幼児であるときはそもそも聴取自体が困難な場合があり、年長の場合は成人と同様の手法で聴取しても問題ないことがあるからです。

 

 

(※刑事法(性犯罪関係)部会第5回配布資料10「代表者聴取の取組の実情」法務省ホームページ、https://www.moj.go.jp/content/001367831.pdf(2024年2月15日利用)をもとに、弊所作成)

 

 

司法面接に関する刑訴法改正

改正の概要

司法面接に関係する刑訴法改正は、令和5年性犯罪に関する刑法・刑事訴訟法改正の一内容です。

 

性犯罪関連規定が改正された目的は、性犯罪は被害者の尊厳を侵害し多大な精神的・肉体的苦痛を与える重大犯罪であって厳正に対処する必要があるという認識に基づき、被害の実情や実態に即した規定とするため、近年の性犯罪をめぐる状況に鑑み、これを適切に対処することにあるとされています。

 

そして、被害状況を繰り返し供述することによって被害者には心理的・精神的負担が生じるので、これを軽減するため、いわゆる司法面接的手法を用いて被害者から聴取した様子を記録した録音・録画については、一定の要件の下、反対尋問の機会を保障した上で、主尋問に代えて証拠とすることができる(伝聞例外)ことになりました。

この旨を規定しているのが、新設された刑事訴訟法321条の3です。

 

⇒こちらでも詳しく解説しています

性犯罪規定が改正されました②~刑事訴訟法改正のポイント

 

 

法改正の内容

➀刑法上の性犯罪規定の罪の被害者(未遂含む)、児童虐待の被害者、児童ポルノ禁止法違反の被害者、性的姿態等撮影処罰法違反の被害者

②犯罪の性質、供述者の年齢、心身の状態、被告人との関係その他の事情により、更に公判準備又は公判期日において供述するときは精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認められる者(目撃者など事件の参考人の場合)

以上の方の供述の録音・録画について、司法面接的な措置を採られた状況下で聴取過程その他の事情を考慮して相当と認めるとき、伝聞例外によって321条1項にかかわらず証拠能力が認められることになります。

 

したがって、子どもに対して司法面接的な手法(すなわち代表者聴取)を実施し、その様子を録音・録画して、その録音・録画を裁判で証拠として提出した際に、上記の要件を満たすのであれば、録音・録画に記録されている子どもの供述は公判期日でなされたものとみなされます。

ただし、裁判所は、その録音・録画を取調べた後、訴訟関係人に供述者(子ども等)を証人として尋問する機会を与えなければならないので、反対尋問は改正後も従前同様必要になります。

 

なお、条文(刑訴法321条の3)には「司法面接的な措置」という言葉は現れていませんが、「必要な措置」として

イ 供述者の年齢、心身の状態その他の特性に応じ、供述者の不安又は緊張を緩和することその他の供述者が十分な供述をするために必要な措置

ロ 供述者の年齢、心身の状態その他の特性に応じ、誘導をできる限り避けることその他の供述の内容に不当な影響を与えないようにするために必要な措置

が規定されており、司法面接的な手法をとることが想定されています。

 

 

施行日

本改正は「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案」に含まれ、同法律案は令和5年6月23日第211回国会で成立し、同年12月15日より施行されています。

 

⇒この法律案による他の改正内容の解説はこちら

性犯罪規定が改正されました➀~刑法改正のポイント

 

 

改正を経ても残る課題

「代表者聴取」自体に存する問題

刑訴法321条の3でいう「必要な措置」は司法面接的な方法を前提としていますが、ここで取られる「司法面接的手法」すなわち代表者聴取に課題があるとされています。

 

前節でご紹介したように、代表者として子どもから聞き取りを行う主体のほとんどが検察官です。

その結果、有罪認定に必要となる構成要件を引き出しただけで、子供から十分に事件の事実を引き出すような質問をしないまま、面接を終えてしまっている事例が散見されています。

また、法律家たる検察官が司法面接的手法により聴取を行ったとしても、それによって得られる供述の信用性が類型的に高まるわけではありません(検察官面前調書のように信用性が高まるというわけではありません)。

自由報告を中心とする司法面接においては、有罪立証を行う立場にある検察官が立場上なじまないのではないかという疑問も呈されています。

犯罪事実の立証のため役立つ内容を聴取することも重要であるため、確かに捜査実務への理解も必要です。ただし、司法面接自体が児童の発達や心理の専門家が適している一面もあるため、捜査の実情を理解しつつも児童福祉・心理にも精通した、中立的主体が聴取主体となるべきと指摘されています。

 

もっとも、現状このような資格・役職は存在しないところで、専門家育成の必要性が強く認識されています。

 

また、「司法面接的手法」というものも、どのような手法を用いればそれにあたると言えるのか、明確な指標は何もありません。現在の実務でも、司法面接とは名ばかりの、プロトコルを全く遵守していない「事情聴取映像」が散見されますが、どんな手法であれば要件を充足し、どんな手法であれば要件を充足しないのかについては、何も決まりがありません。とりあえず検察官が「司法面接的手法だ」と主張さえすれば採用されてしまい、個々の問題点は供述の信用性の問題として処理されてしまうような、ルーズな運用になってしまうのではないかという危惧があります。

 

 

証人審問権との関係で生じる問題

前述のように改正法は、代表者聴取よる録音・録画は主尋問を不要とし、事後的に反対尋問を行うという内容です。

 

ここで、憲法37条2項で保障される証人審問権との関係で問題が生じます。

(証人審問権とは、被告人が刑事裁判において証人に審問する機会を与えられる権利のことです。)

 

代表者聴取は「できる限り早く」つまり捜査の初期段階で行われますが、公判における証人尋問は、それよりもかなり後で、相当程度時間が経過していることになります。

通常の証人尋問であれば主尋問の直後に反対尋問を行うため、主尋問で供述する時点での知覚・記憶やその叙述が反対尋問の時点でもなお変化がないことを前提として反対尋問を行い、証人の供述を吟味することになります。

しかし、事後的に(しかも相当時間を経過して)反対尋問を行う場合には、司法面接的手法で供述した時点から、その知覚や記憶、叙述が変化する可能性があります。知覚や記憶は減退するもので、叙述の機能も変化する可能性があるからです。

反対尋問の前に、その司法面接的手法を取った際の供述状況を証人に見せるか否かという問題も生じます。記憶への誘導等がそれによって生じてしまうからです。しかし一方で、いきなり反対尋問をするとしても、前提となる主尋問がその場では存在しないために、証人が何を訊かれているのかを把握することが困難になることも想定されます。このような尋問では、反対尋問の機能である真実発見を阻害してしまうことになります。

実務の運用にも、とても重大な問題が立ちはだかっていると言えます。

 

公判以外における証人尋問以外の要素からも、代表者聴取により得られた供述の信頼性を評価することができるような制度を整備することも重要になると言えます。聴取過程を全て記録することや司法面接に至る経緯(聴取前に大人から暗示的・誘導的な言葉による影響を受けていないか)を全て弁護人に対して明らかにすることです。

 

イギリスでは、早い段階で司法面接の記録等の証拠開示を受け、公判が開始する前に反対尋問を行い、その反対尋問の様子を録画して公判に置いて証拠とする方法も採られているようです。

 

 

終わりに

当初、子どもを対象として実施されていた代表者聴取ですが、現在は精神障がい者の方々も対象となっており、個々の事例に応じて必要かつ適切であると判断されれば、司法面接的手法は一層活用が広がっていくことも予想されます。

さらに、今回の法改正によって、代表者聴取を通し証拠として提出される録音・録画は、これまで以上に公判で重要な立場を占めることになります。

しかしこれまで述べたとおり、この制度は真実発見を阻害し得る要素も含んでおりますので、その運用には我々弁護人が個々の弁護実践でしっかり目を光らせなければなりません。

 

弊所では、刑事弁護に関わるさまざまな法改正について正しく理解するとともに、改正を受けた最新の実務状況にも注意を払い、最善の弁護活動を実践してまいります。