記事を執筆した弁護士

弁護士法人ルミナス法律事務所 東京事務所
弁護士 大橋 いく乃

早稲田大学大学院法務研究科卒業。最高裁判所司法研修所修了後、弁護士法人ルミナス法律事務所に加入し、多数の刑事事件・少年事件を担当。第一東京弁護士会刑事弁護委員会・裁判員裁判部会委員、刑事弁護フォーラム事務局、治療的司法研究会事務局等を務める。無罪判決、再度の執行猶予判決等を獲得。精神障害を有する方の刑事弁護に注力しており、医療・福祉の専門家と連携した弁護活動に積極的に取り組んでいる。

目次

1.供託とは
供託ってどんな制度?
供託はどんなときにするもの?
供託ができるのはどんなとき?
2.供託の手続
手続きの概要
供託金額と遅延損害金
3.供託の効果

 

 

供託とは

供託ってどんな制度?

供託とは、債権者がこちらからの金銭の受領を拒絶している場合(もしくは受領不能の場合)に、債務者が法務局の管轄する供託所に金銭を預ける制度です。供託をすることで、債務者が債権者に対して負うべき債務(金銭を支払う義務)が消滅します。

 

 

供託はどんなときにするもの?

被害者のいる刑事事件では、裁判官や検察官は、刑事罰・刑事処分を判断するうえで、被害者との示談の成否を重視します。そこで、被害者のいる刑事事件においては、まずは、被害者に対し、謝罪し、示談をすることが重要です。

 

供託は、被害者が被害弁償等の金銭の受領を拒絶している場合に行います。

 

たとえば、

  • 万引き事件で、会社やお店の方針として、被害弁償ができない場合
  • 窃盗事件で、被害者が示談を拒絶している場合

などが挙げられます。

 

供託をした事実が被害回復に向けた努力として評価され、有利な情状として考慮される場合があります。

 

供託ができるのはどんなとき?

法律要件

供託をするためには、以下の要件を満たす必要があります。

  • 債権者が金銭の受領を拒んだとき

または

  • 債権者が金銭の受領ができないとき

刑事事件における供託は前者の場合が多いです。

 

通常、まず被害者の方に直接謝罪し、被害弁償を申し出ます。これに対し、被害者の方が拒絶の意思を示した場合に、供託という手段を取り得る状態となります。

そのため、被害者に対し、被害弁償(損害賠償金+遅延損害金)の支払いの申し出なく、供託をすることはできません。

 

手続的要件

供託のためには、供託の対象を特定する必要があります。そのため、被害者の氏名が明らかでない場合には、供託することはできません。

また、供託は、被害者の住所地を管轄する法務局に対してすることとなります。そのため、被害者の氏名は分かるが、住所地(少なくとも管轄の法務局)が分からなければ、供託することができないこととなります。

 

したがって、供託をする場合には、被害者の氏名や住所を確認する必要があります。

しかし、捜査段階(起訴前)において、被疑者の方や弁護人は、当然には被害者の氏名・住所を知ることはできません。被害者が教えることに同意した場合にのみ、知ることができます。

また、裁判段階(起訴後)においては、弁護人が証拠を見ることができます。しかし、性犯罪などの被害者の住所は、秘匿され、記録上からはわからない場合も多くあります。そのような場合にも、被害者から教示を受ける必要があります。

そして、被害者が、弁護人限りでも住所等の情報を教えることを拒絶した場合には、供託はできないこととなります。

 

供託の手続き

手続きの概要

供託の手続きは以下の通りです。

 

① 法律要件を満たすため、被害者に対し、被害弁償(損害賠償金+遅延損害金)の支払いを申し出、拒絶される

② そのうえで、管轄の法務局を特定し、同法務局に対し、供託の申請をする

③ 供託の申請が通った場合に、はじめて、供託金の納付をする

 

供託金額と遅延損害金

供託をする場合、債務の本旨に従った弁済をする必要があります。

債務の本旨に従った弁済とは、その被害弁償金全額に加え、遅延損害金も含まれます。

したがって、供託の際に納付する金額は、被害弁償金額+遅延損害金の合計額である必要があります。

 

供託金として相当な額は、事案によって様々です。弁護士と相談のうえ決定すべきといえるでしょう。

 

供託の効果

供託は、被害者の方の被害を、できる限り回復する方法のひとつです。

ご本人が真摯に被害回復に向けて活動したという意味で、有利な情状として評価される場合があります。

 

実際に当事務所が担当した事件では、たとえば、以下のような実績があります。

 

  • 窃盗事件で、示談や被害弁償を拒絶した被害者の方に対し、供託を行ったケースで、不起訴処分となった事案
  • 万引き事件で、会社の方針で被害弁償を断られ、供託を行ったことが有利な情状のひとつとして評価され、執行猶予判決となった事案

 

刑事事件において供託をする場合、「供託の原因たる事実」の内容や遅延損害金の額など、供託官と調整する必要のある事項があり、手続きは容易ではありません。当事務所では、供託手続きについて、すべて弁護士が行います。

また、供託が有効な事案か否かは、当該事案の性質や内容ごとに慎重な検討が必要です。

当事務所では、供託が有効な手段か否かという点も含め、ご相談をお受けしています。お気軽にご相談ください。

 

 

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弁護士 大橋 いく乃