記事を執筆した弁護士

弁護士法人ルミナス法律事務所 東京事務所
弁護士 大橋 いく乃

早稲田大学大学院法務研究科卒業。最高裁判所司法研修所修了後、弁護士法人ルミナス法律事務所に加入し、多数の刑事事件・少年事件を担当。第一東京弁護士会刑事弁護委員会・裁判員裁判部会委員、刑事弁護フォーラム事務局、治療的司法研究会事務局等を務める。無罪判決、再度の執行猶予判決等を獲得。精神障害を有する方の刑事弁護に注力しており、医療・福祉の専門家と連携した弁護活動に積極的に取り組んでいる。

はじめに

証拠収集は捜査機関(警察官や検察官)がするもの、というイメージがあるかもしれません。しかし、弁護人も、被疑者や被告人という立場の方のために、証拠収集や調査活動を行う必要があります。

現場に行き、自ら写真や動画を撮影するなどして証拠収集することもありますが、防犯カメラの映像など、当然に確認することはできず、管理者に開示を求めなければならないものもあります。

そういった場合には、まずは弁護士個人として、一定程度事情を説明のうえ、開示いただけるようお願いすることになります。しかし、管理者やその所属する会社の方針として、個人からのお願いのみでは、断られてしまうこともあります。

そういった場合には、弁護士会を通じて照会し、必要な事項の報告を求めることができます。この制度を弁護士会照会(23条照会)といいます。

 

 

弁護士会照会(23条照会)について

弁護士会照会(23条照会)とは、弁護士が、依頼を受けた事件について証拠収集や調査などの職務活動を円滑に行うために設けられた法律上の制度です(弁護士法23条の2)。弁護士法の条文から、23条照会とも呼ばれます。

弁護士会が、当該弁護士会に所属する弁護士(所属弁護士)の申し出に基づき、公務所又は公私の団体に紹介して必要な事項の報告を求めることができます。

所属弁護士が適当でない申し出をした場合には、弁護士会がこれを拒絶することができます。

 

照会を受けた公私の団体には、回答・報告する義務があります。このことは、判例上も認められています(最高裁第三小法廷平成28年10月18日判決)。

なお、照会先の方からは、個人情報との関係で、懸念を示される場合があります。しかし、個人情報の保護に関する法律は、本人の同意なく第三者に情報提供ができる場合として、「法令に基づく場合」を挙げています(同法16条3項1号)ので、本人の同意なく、回答することは許されています。

 

 

公務所等照会との違い

弁護人が利用可能な照会制度として、弁護士会照会とは別に、公務所等照会というものもあります。これは、裁判所が訴訟当事者からの請求又は職権で、公務所又は公私の団体に紹介して、必要な事項の報告を求める制度です。照会の対象事項は23条照会(弁護士会照会)とほとんど変わりません(※弁護士会照会は、調査不要な事項に限られます)。

もっとも、その照会の時期が大きく異なります。

 

弁護士会照会⇒捜査段階、公判段階問わずいつでも可能

・公務所照会⇒第1回公判期日後に限って利用可能

 

防犯カメラやドライブレコーダーの記録といった、時間の経過により上書きされるようなものは、記録自体が消失してしまう可能性が高いです。そのような記録は、公務所照会では間に合わず、弁護士会照会によらざるを得ません。

このほかにも、当該証拠を弁護側としてどのように利用するかによって、いずれの照会制度を利用すべきかが異なる場合があります。

 

 

終わりに

日本の刑事訴訟制度は、当事者主義が採用されており、証拠収集は当事者の責務です。

しかし、強制処分(強制捜査)が許され得る捜査機関と、あくまでも私人であり、そのような権限を持たない弁護人との証拠収集能力には、特に捜査段階には大きな差があります。

それでもその中で、弁護人は、被疑者・被告人とされた方の正当な利益の保護のためにできる限りの証拠収集をしなければなりません。

当事務所では、弁護士会照会をはじめ、弁護人が持ちうる証拠収集手段のすべてを活用し、ご依頼者を護るため全力で活動してまいります。

 

 

弁護士法人ルミナス法律事務所

弁護士 大橋 いく乃