執筆者

弁護士法人ルミナス 
弁護士 大橋 いく乃 が執筆しました。

目次

1.開示される証拠の種類
2. 検察官請求証拠の早期開示の意義
3. 検察官請求証拠の開示が遅れている場合の対処
4. まとめ

 

 

1.開示される証拠の種類

刑事裁判では、検察官が、公訴事実(起訴状に記載されている事件の内容)を立証する責任を負っています。その立証のため必要な証拠が「検察官請求証拠(以下「請求証拠」といいます)」です。検察官は、請求証拠のみで、事件を立証することになります。

この請求証拠は、あらかじめ弁護人にこれを閲覧する機会を与えなければならないとされており(刑事訴訟法299条1項本文)、検察官より開示を受けることができます。

もっとも、請求証拠は、証明すべき事実の立証に必要な証拠に厳選しなければならないこととなっています(刑事訴訟規則189条の2)。そのため、請求証拠として開示される証拠は、検察官が大量に有する手持ち証拠のごく一部となります。

しかしそれでは、弁護人と検察官で、大きな情報格差がある状態となってしまいます。事実関係を争う事件では、検察官が立証には不要と考えている証拠(請求証拠に含まれない証拠)にこそ、ご依頼者が無実であることの糸口がある場合が多くあります。事実関係を認めている事件では、行為の態様などについて、より有利な事実を推認できる証拠を、検察官が持っていることもあります。そのため、このような請求証拠以外の証拠を開示させることも極めて重要です。このような証拠は、検察官から当然には開示されず、弁護人からの開示請求が必要となります。付されている手続きの違いや開示請求の仕方の違いによって、任意開示証拠、類型開示証拠、主張関連開示証拠など、証拠の呼び方が異なります。各証拠開示手続きやその重要性について、詳細はこちらをご覧ください。

 

 

2.検察官請求証拠の早期開示の意義

検察官から開示される証拠のうち、最初に弁護人の手元にくるのが請求証拠です。通常、検察官は、起訴するタイミングで、膨大な証拠から厳選し、請求証拠のみを抽出する証拠分けの作業をしています。そのため、起訴直後に開示が可能であるはずですが、多くの事件では、起訴されてから2週間程度で開示されます。

検察官から請求証拠を受け取った後、弁護人はすぐに当該証拠を検討します。争っている事案では、当該証拠があることを前提に、任意開示や類型開示の請求をかけたり、弁護人として調査を進めたりします。事実関係を認めている場合にも、請求証拠の検討は不可欠です。各証拠から、本当に公訴事実の事実関係が立証できているのか、証拠収集手続きに違法な部分はなかったかという視点をもって検討していきます。ご本人に請求証拠の内容を確認してもらうという作業も重要です。ご本人の認識や記憶と異なる部分がないか、当事者の目線で確認していただきます。

このように、検察官から請求証拠を受け取った後、第1回公判期日までに必要な弁護側の検討事項や確認事項は多岐にわたります。この検討や確認は、弁護側の防禦のベースライン、公判段階における検討の起点であり、第1回公判期日に充実した審理を行うために非常に重要な作業です。起訴後、弁護人は、可能な限り早期に検察官から開示を受け、このような作業に着手する必要があります。刑事訴訟規則上も、検察官は、弁護人に対し、起訴後なるべくすみやかに請求証拠を閲覧する機会を与えることが規定されています(刑事訴訟規則178条の6第1項1号)。

 

 

3.検察官請求証拠の開示が遅れている場合の対処

しかし、稀に検察官からの請求証拠の開示が、起訴後2週間以上経過しても受けられないことがあります。上述したような早期の請求証拠開示の重要性からすれば、そのような事態は看過できません。また、上述したように、請求証拠の検討が公判段階における検討の起点となることからすれば、請求証拠開示の遅延により、公判手続き自体が遅延していくこととなり、ご本人の迅速な裁判を受ける権利が侵害されることにも繋がります。

そこで、そのような場合には、早期の段階から①担当検察官への電話や書面による連絡、②検事正や刑事部長、担当検事に宛てた抗議文にて書面で申し入れするといった形で、一刻も早い開示を促していきます。

請求証拠の開示の遅れを決して容認せず、可能な手段を尽くして開示を促していくことが肝要です。

 

 

4.まとめ

どのような事案でも、いかなる主張をしていても、刑事手続きの最中にあるご本人は、不安定な立場に立たされ、精神的にも肉体的にも、大きな負荷がかかっている状態にあります。

法律上、当然に開示される証拠であるからといって、決して受け身にならず、検察官による適時適切な証拠開示を促し、ご本人にとって迅速に適切な形で裁判を進めることも、弁護人に求められる重要な活動のひとつだと考えています。