記事を執筆した弁護士

弁護士法人ルミナス 代表
弁護士 中原 潤一

弁護士法人ルミナス代表弁護士。日弁連刑事弁護センター幹事、神奈川県弁護士会刑事弁護センター委員、刑事弁護実務専門誌編集委員等を務め、全国で弁護士向けの裁判員裁判研修の講師を多数務めている。冤罪弁護に精通し、5件の無罪判決を獲得。少年事件で非行事実なしの決定等の実績を有する。逮捕・勾留されているご依頼者を釈放する活動、冤罪事件の捜査弁護活動及び公判弁護活動、裁判員裁判等に注力している。

目次

1.DNA鑑定や繊維鑑定についての認識の違い
2.DNA鑑定と繊維鑑定の位置付け
3.DNAや繊維が出なくても裁判になる
4.当事務所で扱った過去の裁判例
5.痴漢冤罪のご相談は、当事務所へ

 

 

1 DNA鑑定や繊維鑑定についての認識の違い

以前「痴漢や盗撮を疑われても絶対に逃げないでください!」というコラムの中で、DNA鑑定や繊維鑑定で冤罪を晴らせるというのは誤りだということを書きました。

ところが、Twitter等のSNSで、未だに、「DNA鑑定や繊維鑑定が始まってから痴漢冤罪は存在しない」という趣旨の言説を見かけることがあります。

すでに上記コラムで明らかにしているとおり、この言説は誤りです。

DNA鑑定や繊維鑑定があっても、痴漢冤罪は防げません。

むしろ、捜査機関や裁判所は、DNA鑑定や繊維鑑定を「痴漢冤罪を防止するもの」とは考えていません。

この点に、一般の方と、我々法律家の認識の違いが生じていると思います。

そこで、今回のコラムでは、少しこの点を深掘りして、DNA鑑定や繊維鑑定にどのような意味があるのか。刑事裁判の場で実際にどのように扱われているのか、具体的な事例をもとにご説明したいと思います。

 

 

2 DNA鑑定と繊維鑑定の位置付け

それではまず、DNA鑑定と繊維鑑定が刑事裁判の中でどのように扱われるのかについて、ご説明します。

刑事裁判は、検察官が被告人が有罪であることが間違いないことを立証する場です。

痴漢事件の場合、被告人が有罪であることを立証する証拠は、被害者の証言です。被害者が被害に遭ったこと、そして、加害行為をしていたのが被告人であることを被害者の証言で立証することになります。

一方で、満員電車の場合、犯人の取り違えということが起こり得ます。

この場合、被告人が犯人であるという被害者の証言を補強する必要があります。

そこで登場するのが、DNA鑑定と繊維鑑定です。

痴漢行為が強制わいせつ罪にまで至っているような場合は、加害者が被害者の陰部等を直接触れていることになります。この場合で、被告人の指などから、被害者のDNAが検出されたような場合には、被害者は被害者が言う通りの痴漢被害にあったのだと言うことと、その犯人が被告人であることを一定程度裏付けることになります。

また、痴漢行為が服の上から行われるいわゆる迷惑行為防止条例違反に留まる場合であっても、被告人の指などから、被害者の繊維が検出されたような場合には、やはり被害者は被害者が言う通りの痴漢被害にあったのだと言うことと、その犯人が被告人であることを一定程度裏付けることになります。

このように、DNA鑑定と繊維鑑定は、被告人を有罪にする方向には役に立つ証拠になると言えそうです。

それでは、被告人を無罪にする方向に役に立つのでしょうか。

DNA鑑定と繊維鑑定によって、冤罪はなくなるのでしょうか。

 

 

3 DNAや繊維が出なくても裁判になる

ここまで読んでいただいた方には、DNA鑑定と繊維鑑定によって冤罪がなくなるというものではないことはよくご理解いただけたと思います。

すでに述べた通り、DNA鑑定と繊維鑑定はそれが検出されたら、被害者の話を裏付ける証拠になります。

それが検出されなかったらどうでしょうか?

それは、検出されなかったら被告人が無罪になると言うものではなく、被害者の証言を裏付ける証拠が一つ出なかった、というものに過ぎません。

DNA鑑定と繊維鑑定をした結果、DNAや繊維が検出されなかったとしても、他の証拠から被害者の証言が十分信用できるということになれば、被告人を有罪とすることができます。

つまり,DNAや繊維が出なくても裁判になる=冤罪は生まれ得るのです。

以下では、当事務所で扱った、DNAや繊維が出なかったにもかかわらず、検察官が起訴した事例をご紹介します。

 

 

4 当事務所で扱った過去の裁判例

DNA鑑定でDNA不検出で裁判になった事例

電車内で痴漢行為をしたとして、強制わいせつ罪で起訴されました。

起訴後、DNA鑑定と繊維鑑定の鑑定書を検察官から開示されましたが、DNAも繊維も検出されていませんでした。

もちろん我々は、これを「被告人が犯人ではない証拠の一つである」と主張しました。裁判所は、「被告人が犯人ではない合理的な疑いが残る」として無罪判決を言い渡しましたが、このDNAも繊維も検出されていないことは、その理由としては挙げられていません。

つまり、DNA鑑定も繊維鑑定も、冤罪を防止するための証拠としては機能していないのです。

 

繊維鑑定で繊維不検出で裁判になった事例

電車内で痴漢行為をしたとして、迷惑行為防止条例違反で起訴されました。

起訴後、繊維鑑定の鑑定書を検察官から開示されましたが、繊維は検出されていませんでした。

検察官が法廷に連れてきた科捜研の技官は、公開の法廷で繊維鑑定について概ね以下のように証言しました。

 

これまで性犯罪の繊維鑑定は300件程度行ってきたが、繊維が実際に出たのは10件程度しかない。繊維は、手と服が接触し、手に繊維がついたとしても、落ちてしまうことがよくあるので、繊維が検出されなかったからと言って触れていないと言うことにはならない。なお、そのような理由で、最近は繊維鑑定は減少傾向にある。

 

結局、このケースでは、手から繊維は出ませんでしたが、他の理由から被害者の証言が信用できるとして、有罪となってしまいました。

 

 

5 痴漢冤罪のご相談は、当事務所へ

いかがだったでしょうか。巷のSNSでは、DNA鑑定や繊維鑑定の登場によって痴漢冤罪がなくなったかのような言説がありますが、それが明確な誤りだと言うことがご理解いただけたと思います。

このように、刑事事件、刑事裁判については、その知識や技術に高い専門性が要求されます。当事務所は、複数件の痴漢冤罪事件の弁護活動を経験しており、不起訴や無罪判決を獲得しています。痴漢冤罪のご相談は、東京(新宿)、神奈川(横浜)、埼玉(大宮)に法律事務所がある弁護士法人ルミナス法律事務所までご相談ください。

 

 

弁護士法人ルミナス法律事務所横浜事務所

弁護士 中原潤一