記事を執筆した弁護士

弁護士法人ルミナス法律事務所 東京事務所 所長
弁護士 神林 美樹

慶應義塾大学法科大学院卒業。最高裁判所司法研修所修了後、都内の法律事務所・東証一部上場企業での勤務を経て、現在、弁護士法人ルミナス法律事務所所長。日弁連刑事弁護センター幹事、第一東京弁護士会刑事弁護委員会・裁判員部会委員等を務めている。冤罪弁護に注力し、無罪判決4件獲得。また、障害を有する方の弁護活動に力を入れており、日弁連責任能力PT副座長、司法精神医学会委員等を務めている。

目次

性犯罪規定が改正されました
令和5年7月13日から施行
刑法改正のポイント
不同意わいせつ罪・不同意性交等罪
罪名の変更
要件の改正
性交同意年齢の引き上げ
身体の一部又は物の挿入行為の取扱いの見直し
配偶者間で不同意わいせつ罪・不同意性交等罪が成立することの明確化
16歳未満の者に対する面会要求等の罪

 

 

性犯罪規定が改正されました

令和5年6月16日に「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」(令和5年法律第66号、以下「改正法」といいます)が成立し、同月23日に公布されました。

 

改正法によって、刑法及び刑事訴訟法の性犯罪規定が、大幅に改正されています。

 

今回は、改正法のうち、刑法改正部分(以下「改正刑法」といいます)のポイントについて解説します。

 

 

令和5年7月13日から施行

改正刑法は、令和5年7月13日から、施行されています。

 

したがって、令和5年7月13日以降に行われた行為については、改正刑法が適用されることになります。

 

 

刑法改正のポイント

刑法改正のポイントは、大きく2つに分けられます。

 

ポイント➀:強制わいせつ罪が不同意わいせつ罪へ・強制性交等罪が不同意性交等罪へ改正

 

ポイント➁:16歳未満の者に対する面会要求等の罪の新設

 

主要な条文は、以下のとおりです。

 

176条(不同意わいせつ)

 

1 次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、六月以上十年以下の拘禁刑に処する。

➀暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。

➁心身の障害を生じさせること又はそれがあること。

➂アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。

➃睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。

➄同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。

➅予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕させること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。

➆虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。

➇経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。

 

2 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、わいせつな行為をした者も、前項と同様とする。

 

3 十六歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が産まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。

 

 

177条(不同意性交等)

 

1 前条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、性交、肛門性交、口腔性交又は膣若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなもの(以下この条及び第百七十九条第二項において「性交等」という。)をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、五年以上の有期拘禁刑に処する。

 

2 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、性交等をした者も、前項と同様とする。

 

3 十六歳未満の者に対し、性交等をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が産まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。

 

 

182条(十六歳未満の者に対する面会要求等)

 

1 わいせつの目的で、十六歳未満の者に対し、次の各号に掲げるいずれかの行為をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)は、一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。

➀威迫し、偽計を用い又は誘惑して面会を要求すること。

➁拒まれたにもかかわらず、反復して面会を要求すること。

➂金銭その他の利益を供与し、又はその申込み若しくは約束をして面会を要求すること。

 

2 前項の罪を犯し、よってわいせつの目的で当該十六歳未満の者と面会をした者は、二年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。

 

3 十六歳未満の者に対し、次の各号に掲げるいずれかの行為(第二号に掲げる行為については、当該行為をさせることがわいせつなものであるものに限る。)を要求した者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)は、一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。>

➀性交、肛門性交又は口腔性交をする姿態をとってその映像を送信すること。

➁前号に掲げるもののほか、膣又は肛門に身体の一部(陰茎を除く。)又は物を挿入し又は挿入される姿態、性的な部位(性器若しくは肛門若しくはこれらの周辺部、臀部又は胸部をいう。以下この号において同じ。)を触り又は触らせる姿態、性的な部位を露出した姿態その他の姿態をとってその映像を送信すること。

 

以下、それぞれの改正のポイントについて、解説します。

 

 

不同意わいせつ罪・不同意性交等罪

罪名の変更

以下のとおり、罪名が変更されました。

 

・強制わいせつ罪+準強制わいせつ罪 → 不同意わいせつ罪

 

・強制性交等罪+準強制性交等罪   → 不同意性交等罪

 

要件の改正

不同意わいせつ罪・不同意性交等罪の成立要件が改正されました。

 

不同意わいせつ罪の成立要件

不同意わいせつ罪は、以下⑴~⑶のいずれかの場合に成立します。

 

⑴以下の3要件を満たす場合(改正刑法176条1項)

 

176条1項各号の行為・事由+その他これらに類する行為・事由により、

 

同意しない意思を形成・表明又は全うすることが困難な状態にさせること、あるいは、相手がその状態にあることに乗じること

 

③わいせつな行為をしたこと

 

⑵以下の2要件を満たす場合(改正刑法176条2項)

 

行為者がわいせつなものではないと誤信をさせたり、行為者について人違いをさせること、又は、相手がそのような誤信・人違いをしていることに乗じること

 

②わいせつな行為をしたこと 

 

⑶性交同意年齢の引き上げ(改正刑法176条3項)

 

16歳未満の者に対して、わいせつな行為をしたこと。ただし、相手が13歳以上16歳未満の場合には、行為者が5歳以上年長である場合に限る。

 

不同意性交等罪の成立要件

不同意性交等罪は、以下⑴~⑶のいずれかの場合に成立します。

 

⑴以下の3要件を満たす場合(改正刑法177条1項)

 

177条1項各号の行為・事由+その他これらに類する行為・事由により、

 

同意しない意思を形成・表明又は全うすることが困難な状態にさせること、あるいは、相手がその状態にあることに乗じること

 

③性交等をしたこと

 

 

⑵以下の2要件を満たす場合(改正刑法177条2項)

 

行為者がわいせつなものではないと誤信をさせたり、行為者について人違いをさせること、又は、相手がそのような誤信・人違いをしていることに乗じること

 

②性交等をしたこと

 

 

⑶性交同意年齢の引き上げ(改正刑法177条3項)

 

16歳未満の者に対して、性交等をしたこと。ただし、相手が13歳以上16歳未満の場合には、行為者が5歳以上年長である場合に限る。

 

 

性交同意年齢の引き上げ

いわゆる性交同意年齢が「16歳」に引き上げられました(改正刑法176条3項、177条3項)。

よって、16歳未満の者に対して、わいせつな行為・性交等をした場合には、不同意わいせつ罪・不同意性交等罪が成立します。

 

16歳未満=16歳は含みません。「15歳までの相手」が対象となります。

 

(参考)

15歳:中学3年生+高校1年生

16歳:高校1年生+高校2年生

 

ただし、相手が13歳以上16歳未満の場合には、行為者が5歳以上年長である場合に限る、という要件が設定されています。

 

これは、中学生同士や高校生同士の性行為が犯罪になってしまうことを防止する趣旨で設けられたものであると考えられています。

 

もっとも、たとえば、相手が15歳の高校1年生、行為者が18歳の大学1年生という場合でも、176条1項又は2項の要件を満たせば不同意わいせつ罪が成立し、177条1項又は2項の要件を満たせば不同意性交等罪が成立することに注意が必要です。

 

 

身体の一部又は物の挿入行為の取扱いの見直し

不同意性交等罪における「性交等」には、性交、肛門性交、口腔性交に加えて、「膣又は肛門に、陰茎以外の身体の一部や物を挿入する行為」も含まれることになりました(定義規定:改正刑法177条1項)。

 

 

配偶者間で不同意わいせつ罪・不同意性交等が成立することの明確化

改正刑法176条1項及び177条1項に「婚姻関係の有無にかかわらず」と明記されました。

配偶者間においても不同意わいせつ罪・不同意性交罪が成立することが明確化されています。

 

 

16歳未満の者に対する面会要求等の罪

16歳未満の者に対し、以下のいずれかの行為をした場合には、改正刑法182条の「16歳未満の者に対する面会要求等の罪」が成立します。

 

ただし、相手が13歳以上16歳未満の場合には、「行為者が5歳以上年長である場合」に限ります

 

(1)わいせつの目的で、

➀威迫し、偽計を用い又は誘惑して面会を要求

➁拒まれたにもかかわらず、反復して面会を要求

➂金銭その他の利益を供与し、又はその申込み若しくは約束をして面会を要求

法定刑:1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金(改正刑法182条1項)

 

(2)上記(1)の結果、わいせつの目的で面会

法定刑:2年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金(改正刑法182条2項)

 

(3)性交等をする姿態、性的な部位を露出した姿態などの映像を送信するよう要求

法定刑:1年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金(改正刑法182条3項)

 

以上、改正刑法のポイントについて、解説しました。

 

本改正は、「性犯罪に関する施策検討に向けた実態調査ワーキンググループ」(平成30年4月~)、「性犯罪に関する刑事法検討会」(令和2年6月~)、「法制審議会-刑事法(性犯罪関係)部会」(令和3年10月~)での議論を経て成立しましたが、弁護人として検討すべき点が多く含まれています。

 

当事務所では、改正法の内容だけでなく、改正の経緯や、問題の所在についても正しく理解し、依頼者を護るために、改正刑法における最善の弁護活動を実践してまいります。

 

不同意わいせつ罪、不同意性交等罪、不同意わいせつ等致傷罪、16歳未満の者に対する面会要求等の罪に関するご相談は、弁護士法人ルミナス法律事務所までご相談ください。

 

 

弁護士法人ルミナス法律事務所

弁護士 神林美樹