記事を執筆した弁護士

弁護士法人ルミナス法律事務所 埼玉事務所 所長
弁護士 田中 翔

慶應義塾大学法科大学院卒業。最高裁判所司法研修所修了後、公設事務所での勤務を経て、現在、弁護士法人ルミナス法律事務所埼玉事務所所長。日弁連刑事弁護センター幹事、埼玉弁護士会裁判員制度委員会委員、慶應義塾大学助教等を務めるほか、全国で弁護士向けの裁判員裁判研修の講師も多数務めている。冤罪弁護に注力し、無罪判決2件獲得。もし世界中が敵になっても、被疑者・被告人とされてしまった依頼者の味方として最後まで全力を尽くします。

第一審で思うような結果にならなかったので控訴審からは弁護人を変えたいというご相談も少なくありません。

控訴審で弁護人を変更し、第一審とは異なる視点で争うことは非常に大切なことです。そのことで、控訴審では良い結果が出ることも当然あります。

しかし、現在の控訴審の仕組みを考えると、第一審での弁護活動が、控訴審にとっても大切になってきます。

 

 

控訴審の仕組み

控訴審の仕組みとして、①続審、②覆審、③事後審というものがあります。

おおまかにいうと、①は、第一審に引き続いて、控訴審で新しく提出された主張や証拠にも基づいて、控訴審の弁論終結時を基準として判断を行う仕組みをいいます。②は、第一審とは別に、控訴審でもう一度裁判をやり直す仕組みです。

③は、原則として新しく証拠の提出を認めず、第一審の裁判資料に基づいて、控訴審が第1審の判決の当否を判断する仕組みをいいます。

刑事事件の控訴審は、③事後審の仕組みを採用しているといわれています(なお、民事事件の控訴審は①となっており、戦前の日本の刑事訴訟では②を採用していました。)。

つまり、現在の控訴審は、裁判を一からやり直すのではなく、第一審の続きでもなく、第一審判決が正しいかどうかを判断するものとなっています。

 

 

第一審の重要性

事後審制では、原則として、第1審の判決が論理則・経験則に照らして間違っていないかを、第一審時の証拠に基づいて判断することになります。

そのため、控訴審を見据えて事実や量刑を争う場合でも、第1審でどのような主張がされ、どのような証拠が提出されているかが非常に重要になってきます。

具体的に例を挙げると、第一審で、検察官が証拠調べ請求をした不利な書面に安易に同意して採用されていたりすると、控訴審でそれを取り消すことはできず、その証拠があることを前提として弁護活動をせざるを得ません。

また、証人尋問で不適切な誘導尋問がされたときなどに、それに対してすぐに異議を出していなければ、その誘導尋問の違法性を争うことはできなくなってしまうなどの例もあります。

さらに、控訴審では、検察官から証拠開示を受けることが難しくなるという問題もあります。

第一審では、公判前整理手続に付された事件であれば、類型証拠開示請求、主張関連証拠開示請求などの証拠開示手続が定められています

しかし、控訴審では、検察官に証拠開示を義務づける制度はありません。実務上も、控訴審では、証拠開示を求めても開示に応じてもらえない場合が少なくありません。

そのため、第一審でできるだけ幅広く検察官から証拠開示を受けておくことが重要になります。

第一審で十分な弁護活動がされていない場合、控訴審でも悪影響が残ってしまうことになります。控訴審のためにも、第一審でどのような弁護活動をするかが非常に重要になります。

 

 

まとめ

このように、控訴審でも第一審でどのように争っていたかが重要になります。

「控訴審があるから」とは考えず、第一審からできる限りのことをするべきです。

第一審での争い方に疑問を感じたら、第一審の途中でもできるだけ早く当事務所にご相談ください。

 

 

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弁護士 田中 翔