記事を執筆した弁護士

弁護士法人ルミナス 代表
弁護士 中原 潤一

弁護士法人ルミナス代表弁護士。日弁連刑事弁護センター幹事、神奈川県弁護士会刑事弁護センター委員、刑事弁護実務専門誌編集委員等を務め、全国で弁護士向けの裁判員裁判研修の講師を多数務めている。冤罪弁護に精通し、5件の無罪判決を獲得。少年事件で非行事実なしの決定等の実績を有する。逮捕・勾留されているご依頼者を釈放する活動、冤罪事件の捜査弁護活動及び公判弁護活動、裁判員裁判等に注力している。

目次

1. 侮辱罪の法定刑引き上げが施行されました
2. 執行猶予期間に関する改正が行われました
3. 弁護戦略が大きく変わる

 

 

侮辱罪の法定刑引き上げが施行されました

刑法改正案が2022年6月17日に公布され、3年以内に施行されることになったことを以前こちらのコラムでご紹介致しました。そのうち、侮辱罪の法定刑を「一年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」に引き上げた部分が2022年7月7日に施行されました。したがって、同日以降は改正された刑法が適用されますので、特にSNS上の論評についてはお気をつけください。

 

 

執行猶予期間に関する改正が行われました

先日、刑法改正のポイントというコラムの中で、再度の執行猶予に関する改正が行われたということをご紹介しました。これと同じくらい我々にとって重要な改正が、「執行猶予期間」に関する改正です。

現在の刑法では、執行猶予中に再犯を犯してしまった場合でも、判決が確定するまでに執行猶予期間が満了すれば、前刑は取り消されていました。つまり、例えば、懲役1年執行猶予3年の判決を言い渡されていた方が、2年6ヶ月後に再犯をしてしまった場合、6ヶ月以内に判決が確定すれば前刑の懲役1年と新たに言い渡された判決を合わせた分懲役に行かなければならないのですが、6ヶ月経過してから判決が確定すれば、前刑の懲役1年は取り消されるので、新たに言い渡された判決の分だけ服役すればよかったのです。そのために、執行猶予期間満了が近い方の場合には、執行猶予期間が満了するまでなんとか判決を伸ばすという弁護戦略がありました(俗称で「弁当切り」などと言われたりします)。

しかし、今回の刑法改正で、執行猶予期間中に再犯をしてしまってその罪で起訴された場合、執行猶予期間が経過しても執行猶予が取り消されることがなくなるまで「効力継続期間」として、効力は失われないということになりました。つまり、起訴されてしまったら、執行猶予期間が満了しなくなったのです。そして、原則として執行猶予期間中に起訴されてしまった事案では、①実刑判決の場合は、執行猶予は取り消されなければならなくなり(刑法27条4項)、②罰金の場合は、裁量的に取り消される(刑法27条5項)ということになったため、実刑判決を受けた場合には、必ず前刑の刑と合わせて服役しなければならないということになります。

 

 

弁護戦略が大きく変わる

まだこの執行猶予期間に関する刑法改正は施行されていませんが、この改正刑法が施行された場合には、いわゆる「弁当切り」という戦略が使えなくなるため、弁護戦略が大きく変わることになります。そして、特に弁護士はこのことを理解しておかないと、依頼者に不利益な弁護活動をすることにもなりかねません。今後弁護士は、今回の刑法改正でこの執行猶予期間が満了しなくなったというポイントと、再度の執行猶予の幅が広がったというポイントをよく理解して、上手く弁護戦略を練っていく必要があります。当事務所では、これらを前提に、依頼者の皆様にとって最良の弁護活動を提供して参りたいと考えております。

 

 

弁護士法人ルミナス法律事務所横浜事務所

弁護士 中原潤一